なぜ、人の命を奪ってはならないのか?

      2023/07/12

法務部のコンプライアンス関係の仕事

 

企業の法務部で働いている方は、契約書の検討・相手方との交渉の他にも、様々な仕事をされていると思います。

 

例えば、株主総会や取締役会のとりまとめ的な仕事やコンプライアンス関係の仕事などがあるでしょう。

 

特に、コンプライアンス関係の仕事は、正直なところ、法務部の人にとっても、「あまり気乗りしない仕事」であると感じている方もいるのではないでしょうか。

 

といいますのも、コンプライアンス関係の仕事は、営業部門等の事業部の方々がやろうとしていること、進めようとしていることに、ストップをかける仕事だからです。

 

例えば、

 

「それは独占禁止法に違反する可能性があるので、やめてください

 

「そんなことしたら、贈収賄に当たります。控えてください

 

などと言わなければなりません。

 

昨今は、企業のコンプライアンス意識というのは昔よりもずっと高まってきているようですが、それでも、上記の様なことを言ってくる法務部は、営業部門等の事業部の方々から見ると、子供の頃の「いい子ぶってる子」「いつでも先生のいうことをきく優等生」的な感じに見られてしまうことがあるかもしれません。

 

そして、そう思われてる雰囲気を自分でも感じてしまうと、法務部としても、あまりいい気はしないですよね。

 

法務部からコンプライアンス絡みで注意をされる営業部門の方の中には、次のような、きわどい要求をしてくる人もいます。

 

「なんでもかんでもコンプライアンスに違反するからダメっていうな。法務部なら、グレーの部分のぎりぎり黒にならないラインを上手に歩き切る方法を考えてアドバイスしてくれ」

 

このような発言をされる方の気持ちもわからないでもありませんが、法務部の人も、法律に違反する行為を会社として行ってしまうと、法的・社会的に制裁を受けることになり、結果的に会社にとって利益にならないという事態が生じることを避けるために、あえて「学級委員」的な感じで注意していることでしょう。

 

上記の様な要求をしてくる方々は、おそらく、「そもそも、なぜ、カルテル・談合、そして公務員への贈賄がいけないのか?」という点がわかっていないのではないかと私は思うのです。

 

 

なぜ、人の命を奪ってはいけないのか?

 

このようにいうと、次のようの反論があるかもしれません。

 

「そんなの、わかってる。カルテル、談合、そして贈収賄は、法律で禁止されているんだ。だからそれに違反してはいけないんだろう?」

 

これは正しい理解でしょうか?

 

質問を変えます。

 

「どうして人の命を奪ってはならないのでしょう?」

 

これにも、「法律で禁止されているから」と答えるでしょうか?

 

ちなみに、法律は、人の命を奪うことを禁止しているわけではありませんよね。

 

刑法の殺人罪の条文を読んでも、「人の命を奪ってはいけない」なんて書いてありません。

 

書いてあるのは、単に、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する(刑法199条)」ということだけです。

 

人の命を奪ってはならない理由、それは、「人の命は尊いから」です。どのくらい尊いかというと、「人一人の命は、地球全体よりも重い」と最高裁の判決文の中でも言われるほどです。

 

もちろん、これは物理的な重さをいっているわけではなく、それだけかけがえのないものだということを言い表しているわけです。

 

そして、それだけ尊いものだからこそ、あえて法律で守ろうとしているわけです。

 

つまり、「あなたが人の命を奪ったら、あなたの命も国家は奪う場合もありますよ」という法律を定めることで、人の命が奪われることを防ごうとしているわけです。

 

何がいいたいかと言いますと、最初に法律があるわけではなく、最初にあるのは、守らなければならない何か、であり、そのために、あえて法律で定めているということです。

 

これは、法律で定められているあらゆる事項にあてはまります

 

決して、法律は天から降ってくるものでもなく、または、その辺の誰かが適当に定めたわけでもなく、必ず、「何か大事なものを守ろう!」という考えのもとに作られるものなのです。

 

カルテル・談合、そして贈収賄といった事項もまさにそうです。

 

法律は、上記を禁止することを最終目的としているわけではなく、上記を野放しにすることで何らかの不都合・不利益が生じることを防ごうとして、わざわざ法律で禁止しているのです。

 

 

コンプライアンス教育での注意点

 

法務部で働いている方々は、社内でコンプライアンスの教育をされることも多々あると思います。

 

その際、以下のような説明をしてしまうこともあるかもしれません。

 

「カルテルは世界中で取り締まりが厳しくなっています。カルテルをすると、何百億という罰金が科され得ます。そうなったら会社としても損ですよね。なので、カルテルは辞めましょう

 

これはこれで事実です。何も間違ってはいません。

 

しかし、そもそも論として、「カルテルはなぜ問題なのか?」「あえて法律がカルテルを禁止する背景には何があるのか?」という点も営業部門等の方々に説明してあげてはいかがでしょうか。

 

それがわかれば、「グレーの線をギリギリ渡り切る方法を教えてほしい」とか、「バレなければいいんじゃない?うまくやる方法を考えて」なんて発言をされる方も減るかもしれません。

 

単に、「罰則・罰金が厳しいからやめてください」ではなく、「そもそも、なぜダメなのか?という点を理解してもらうことが、コンプライアンス教育では最も大事なように思います。

 

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