学生の本分は学問にあり。では、社会人の本分は?
2017/02/05

会議室には、法務部の人が二人、事業部の方々が6人ほど集まり、海外のある国における案件について協議していました。
現地の企業と契約交渉をするために、いつ、どのメンバーで出張に行くか、という点を決めようとしていました。
その案件は、割と大きな案件だったということもあり、法務部から二人出張に行くことを事業部門が望んでいたようです。
しかし、二人の法務部員のうちの若手の一人が、おもむろに口を開き、こういいました。
「ちょっと今回の出張には、私は行けません。」
「えっ!?」
その会議室にいた人たちは、みな驚きました。出張にいけないとはどういうことだろう?体調でも悪いのだろうか?
通常、事業部からの出張要請がある場合には、例えば出張に行っても法務部の出番がないとか、行っても意味がない、というときしか断らないものです。なので、その場にいた人たちは、みな不思議な思いがしたことでしょう。
これには、年配の法務部の人も驚きました。そして、こう聞きました。
「どうして行けないの?」
すると、その若手の法務部員はこう言いました。
「私、今、海外留学に向けて勉強中なんです。出張が予定されている週は、試験の直前なので、出張は控えさせていただきたいと思います。」
みなさんは、この理由について、どう思われますか?
「それは確かに出張に行かずに勉強した方がいいでしょう。だって、留学制度がどうなっているのかわからないけど、試験でいい点数を取らないと留学にいけなくなるかもしれないんでしょ?」
「出張なんていつでもいけるんだから、留学を優先するべき。」
こう思われる方も割といるかもしれません。若手の、特に、自分も会社の制度を使って留学したいと考えている人はそう思うかもしれませんね。
なぜ、会社には留学制度があるのでしょう?
それは、将来、グローバルに活躍できる人材になってほしいと会社が願っているからでしょう。
その若手の人は、それまであまり海外案件にかかわったことがない人でした。
おそらく、海外案件は苦手だったと思います。
将来、自分も先輩方のように海外案件で活躍できるようになりたい、おそらくそう思って、彼は数年前から英語を勉強し始めました。
しかし、この出張を打診されたときは、英語にもまだ自信がなく、「できれば、留学に行って、英語のレベルを上げてから海外案件を積極的にこなしたい」そう思っていました。
また、「もしも留学のための試験でいい点数が取れないと、いい大学に留学できないかもしれない」とも思いました。
そんな2つの気持ちがあいまって、「留学のための勉強があるので、出張には行きません
」といったのだと思います。
私には、彼の気持ちが痛いほどわかりました。
英語が苦手な者にとって、海外に出張して英語で仕事をしなければならないというのは、本当に苦痛です。
かっこ悪い状況に自分が追い込まれることはほぼ確実です。
自分のことが嫌になることもあるでしょう。
なので、「英語がもう少しできるようになってから本番を迎えたい」
このように思うことでしょう。
しかし、それでも私は、彼のこの時の対応は、彼にとって有利にならないと思うのです。
仕事は、常に不完全な状況で取り組むものです。
「自分が完璧にできるようなことじゃないとやらない」
そういう取り組み方をしているようでは、そんなの関係なしにガンガン経験して、恥ずかしい思いをして、面の皮がどんどん厚くなっていく人には絶対に勝てません。
本番で痛い目や恥ずかしい思いをした人ほど、そこでの自分の課題を認識して、より本番で使える自分になるように努力します。それは、机上の空論の勉強ではなく、実践で使える形での訓練です。英語での協議の際には、最低限自分は何をどのくらい準備しておかなければならないのか、英語力が足りない面はどう補うか、英語以外で重要なのは何か・・・。これらは実際に交渉に自分が積極的に参加しない限り見えてこないのです。
「もう少し勉強してから模擬試験を受ける。今はまだ模擬試験で良い点数を出せるほどのレベルになっていないから・・・」
こんなことを思っている間に、いきなり模擬試験を受けて、自分の課題を浮き彫りにして、やるべきことを明確にした上で勉強をする方がずっと効率的でしょう。それと同じです。
「できるようになるまで挑戦しない」
こんな弱気な態度では、先輩や上司からも頼りにならない人間だと思われます。実際、彼をこう思う人もいるでしょう。
「会社は留学のためにあるんじゃない。留学のための本業をおろそかにするなんて、本末転倒だ。」
「海外案件で活躍するために留学に行かせようとしているのに、その海外案件を留学の勉強を理由に断るなんておかしい。」
「その人は結局、自分の学歴のキャリアを積み重ねたいだけで、会社に貢献しようとは思っていないんじゃないか?留学して何かしら資格を取ったら、すぐに会社を辞めるんじゃないか?」
「留学に向けた勉強が大変なのは理解できる。しかし、同時に仕事をしている。仕事が最優先されるのは当たり前だ。」
こう思われたら、もうその人が大きな案件や、やりがいのある案件、将来の成長につながるような、いい経験になる案件を先輩や上司から積極的に回してもらえることはおそらくないでしょう。
事実、私は、彼が留学から帰国後に、やりがいのある海外案件に携わることができたという話を聞いたことがありません。
仕事に関する記事の目次
何かに挑戦したいと思っているのに、そのための一歩が踏み出せないでいる人へ
「会社って、そもそも誰のものだっけ?」と疑問を抱いている人へ
仕事における段取りや根回しってどんなものかよくイメージできない!という人へ
何かの資格試験に落ちて、「もう人生終わりだ!」と思っている人へ
新しいことをしようとしたら、周りから猛烈な反対を受けて、しょんぼりしている人へ
「完璧にできないくらいなら、初めからしないほうがよい」と思っている人へ
本当は主役になりたいのに、いつも主役になれないと落ち込んでいる人へ
上司に取り入っていろうとしている人を見ると、寒気がしてきてしまう人へ
いつも残業しているが、そんな現状をなんとか変えたいと本気で思っている人へ
「仕事で評価される人は自分とは何が違うんだろう?」と疑問に思っている人へ
「社会人になると、学生の時と一番何が違うんだろう?」と疑問を抱いている学生の方へ
「仕事って、どんなときに楽しさを感じられるんだろう?」と疑問を持っている人へ
「部内の飲み会なんて、どんなに遅刻してもよい、なぜなら仕事じゃないんだから」と考えている人へ
学生時代に頑張ったことが「勉強」だと、就活に不利だと思い、やりたくもないサークルに今から入ろうかな、と考えている学生の方へ
「社会人は、一体何に一番力を入れるべきなんだろう?」と悩んでいる人へ
いつも、「先輩に言われたことをしっかりやろう!」と考えている人へ
今日も自分の案があっさりと却下され、「もう提案なんかしない!」と思ってしまった人へ
正しいことを主張するときは、普段よりも力を込めて語ってしまう人へ
人間は機械にその仕事をいつか全部奪われる日が来るんじゃないか?とおびえている人へ
会社で役員に案件を説明するのが嫌で嫌でしょうがない、という人へ
靖国神社ができたのは、太平洋戦争での戦没者の慰霊のためだと思っている人へ