英文の秘密保持契約の解説③~秘密情報に関する保証・権利・返還について~
2020/01/28

6.情報開示者は、秘密情報について何らの保証もしない
受領した秘密情報に誤りがあったらどうする?
情報受領者は、秘密情報を開示してもらったら、その情報を使って目的を果たそうとします。
しかし情報受領者は、ある日、受領した情報の一部に「誤り」があることに気が付きました。
おそらく、情報受領者は、情報開示者に問い合わせるでしょう。
「この前送ってもらった情報に一部間違いがあるみたいなんだけど・・・」
この場合、情報受領者は、例えば、何らかの損害を被ったとして情報開示者に対して損害賠償を請求出来るのでしょうか?
通常は、できません。
なぜなら、通常は、秘密保持契約書には、次のような条文が定められているためです。
「情報開示者は、秘密情報を「現状渡し」で提供し、秘密情報の第三者への権利侵害、正確性、完全性、または性能について、明示、黙示その他を問わず、何らの保証をしない」
簡単にいうと、「今持っている秘密情報をそのまま渡し、何も保証しない。間違ってても責任負わない」という定めです。
なぜ責任を負わなくてよいことになっているのか?
情報受領者から見たとき、これってひどいですか?
間違っていたのなら、責任を負ってもらいたいですか?
逆に、なぜ秘密保持契約ではこのような定めになっているのでしょう?
それは、秘密保持契約は、具体的な取引関係に入る前の段階で締結されることが多いことが関係していると思います。
そのような具体的な取引関係の前の段階においては、「この相手と今後取引を進めるべきか?」という点を検討する段階であることが多いでしょう。
この段階では、とりあえず何らかの情報が開示されることそれ自体が重要です。ここで正確性やら完全性やらを求めると、情報が開示されるまでに時間がかかります。そうなると、取引段階に入るのも遅れてしまいます。
情報の正確性等は、実際の取引段階になってからで十分足りる。
そういったことが一般的に言えるため、多くの秘密保持契約の中に、上記のような条文が定められているのだと思います。
7.秘密情報を受領したとしても、その情報に関する権利は、情報開示者にある
情報を開示してもらったら、情報受領者はその情報を使うことができます。
では、その情報に関する権利は誰にあるのでしょうか?
もう使ってよいのだから、情報受領者にあるのでしょうか?
いいえ。情報受領者は、あくまで、契約に定められた目的の範囲内での使用ができるだけです。その情報に関する権利、具体的には知的財産権は、情報開示者にあるとされているのが一般的です。
具体的には、次のような条文が定められています。
「秘密情報は、情報開示者の単独財産である。本契約に定められている場合を除き、秘密情報に関する何らの権利も情報受領者に許諾、移転または付与されるとは解釈されない」
もしも、情報に関する権利についての使用許諾を受けたい場合には、秘密保持契約ではなく、技術ライセンス契約を締結するべきです。
8.秘密情報は、契約の終了または開示者の要求があれば、返さなければならない
返してと言われたら?
情報受領者は、秘密情報を受領し、目的の範囲内で使用していました。
するとある日、情報開示者から次のように連絡がありました。
「あの情報、やっぱり返して」
さて、情報受領者は、言われた通り情報を返さないといけないのでしょうか?それとも、「まだ目的を果たし終えていないから返さない」と言って断ることができるでしょうか?
この点、一般的には、次のように定められている条文が多いです。
「本契約の満了あるいは終了の後、または情報開示者の求めがある場合には、情報受領者は直ちに、情報開示者の選択に従い、秘密情報を返却または破棄しなければならない」
つまり、「返してと言われたら、すぐに返さないといけない」というのが一般的です。
なぜ返さないといけないと定められているのか?
「それじゃあ、目的を果たす前に返さないといけなくなり困る!」と思われるかもしれませんが、そもそも秘密保持契約は、「開示された情報の秘密を保持すること」に主眼がある契約で、開示された情報の使用は最重要事項ではないのです。
また、情報受領者は、情報を開示してもらうためにお金を払ったわけでもありません。
さらに、情報開示者としては、情報受領者による秘密情報の管理が杜撰であると感じた場合などに、認められるかわからない裁判所による差止を求めるよりも、すぐに返却・破棄してもらうほうが安心だ、という場合もあるでしょう。
もしもこの点が嫌なら、返却・破棄はあくまで、「秘密保持契約の期間満了または終了後」に限るように修正すればよいと思います。しかし、秘密保持契約は、双方が開示者にも受領者にもなることが多い契約です。
つまり、上記のような修正をすると、自社が「情報をすぐに返してもらいたい!」と考えたときも、期間満了や契約終了まで返してもらえない、という事態になると思われますので、その点も考慮して、上記のような修正をするかどうかを検討する必要があります。
もっとも、私の経験では、契約期間が終わる前に、相手方から「情報を返して」と言われたという話は聞いたことがありません。「情報受領者がよほど杜撰な管理をしている」と情報開示者から思われない限り、そのようなことは滅多にないのでしょう。
まとめ
今回のまとめです。
秘密保持契約では、一般的に次の事項が定められています。
- 情報開示者は、秘密情報について、何らの保証もしない
- 秘密情報に関する権利は、情報開示者にそのまま残っている
- 秘密情報は、情報開示者から「返して」と言われたら、返さないといけない
その理由はこちらに詳しく記載しました。
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英文の秘密保持契約の解説の目次
①サクッと全体像をつかむ | ②秘密の保護と管理 | ③保証・権利・返還 |
④有効期間 | ⑤「秘密の保持」 | ⑥第三者への開示禁止 |
⑦目的外使用の禁止 | ⑧開示してよい範囲(その①) | ⑨開示してよい範囲(その②) |
⑩情報管理義務 | ⑪差し止め請求 | ⑫「現状渡し」と「無保証」 |
⑬権利の留保 | ⑭返還・破棄 | ⑮定義条項 |