夢がなくても遠くまで行ける

信長、秀吉、家康がいつから日本全土に秩序と平和をもたらそうと考えていたのかについては、ドラマや小説ごとに様々に描かれています。おそらく一番多いのは、「かなり若いころから」という設定でしょう。しかし、実際のところ、どうなのでしょう?

 

信長はもともと、現在の愛知県西部にある尾張の守護大名の家臣のそのまた家臣に過ぎませんでした。つまり、一国すら治めていない、ごくごく小さな勢力です。26歳で駿河の今川義元という巨大な勢力を破ったものの、尾張一国をその支配下に置いたのが、家督を18歳で継いでから13年後の31歳のときです。そして34歳のときに、現在の岐阜県に当たる美濃を数年がかりでようやく奪います。この時点でも、わずか2カ国を手中におさめたに過ぎませんでした。

なお、信長が岐阜城に入った時期に「天下布武」という文字を入れた文書を全国に配っていますが、ここでいう「天下」とは、日本全国ではなく、京都を中心とした畿内を意味するに過ぎないという説も有力です。

 

秀吉はどうでしょう?秀吉は、その前半生についての記録がほとんどないため、彼が若かりし頃に何をしていて、何を考えていたのかはわかっていません。尾張中村の百姓の子供で、長い間様々な職業を転々としていたようですが、そんな時期に「俺こそが日本全土を統一してやろう!」なんて思っていたとしたら、それは現代でいえば、「俺は将来ビッグになる!」と考えているのと同程度のものと考えてよいでしょう。

なお、初めて秀吉が一国一城の主になったのは、34歳のときでした。

 

家康は?幼いころから長年に渡る人質生活を強いられ、その後は信長と同盟を結んでひたすら近隣の武田や北条に対して警戒を怠ることができない日々でした。

ちなみに、大河ドラマ『真田丸』では、秀吉が死に、石田三成に対して多くの大名が反発したのをみたときに初めて家康は「秀吉亡き後、その地位に自分が立つことができるかも・・・」と思ったという設定でした。このとき、家康は60歳になろうとする頃でした。それが現実的かもしれません。

 

彼らの時代には、現在の多くの企業が公表しているような「中計」などというものはありません。今年中に隣の国を奪って、5年以内に京都をおさえて、10年以内に日本全土に静謐をもたらす・・・なんてことを文書に残したりはしていません。なので、彼らがいつどのような目標を持っていたのかなど、実際にはわからないのです。

にもかかわらず、様々な人が様々な時期を「彼らが自分の領地を超えて日本全国を意識し始めた」として設定するのはなぜでしょうか。

その理由の1つは、結果から逆算して考えているから、でしょう。

そしてまたもう1つの理由は、彼らはどの時期も目の前の事業に熱中し、並々ならぬ情熱を注いでいたため、初めから日本全土という大目標を念頭においていたとみても不自然ではないから、かもしれません。実際には、彼らは生き残るために、日々必死に目の前の問題に取り組んでいただけだったのかもしれません。

 

あるテレビ番組の中で、元横綱の方が、次のようなことを言っていたのがとても印象に残っています。

「僕は、入門したばかりのときは、横綱に絶対になってやるなんて一度も思ったことがありません。むしろ、いつも怯えていました。幕内に入れるかどうかも、自信がありませんでした。一方で、僕の周りには、「絶対横綱になってやる!」と意気込んでいる人たちがたくさんいました。でも、そういう人に限って、少しの壁にぶつかったときに、あっさりと相撲をやめていったのです。僕なんかは、最初から横綱になってやろう!なんて思っていなかったので、多少つまずいても、あまり落ち込まずに続けることができました。とにかく「自分にはこれしかないのだから・・・」そう思って頑張りました。そうして地道に稽古をしていくうちに、いつの間にか横綱になれるかも、というところに来て、そうして初めて横綱を目指しました。」

これは、大きな目標を掲げることが、必ずしも自分を遠くまで到達できるように導く結果になるとは限らないこと、そして逆に、大きな目標を掲げなくても、成功に辿り着けることがあることを示すエピソードです。

また、誰もが、「過去のあの経験がここで生きるとは思わなかった」と感じたことがあるでしょう。このことは、将来のある時点で「やっておいてよかった」と自分が感じるものは何なのかを、現時点で正しく把握することは簡単ではないことを示しています。それにも関わらず、大きな目標を掲げ、それに一直線に突き進もうとすると、一見目標に直結するように思えること以外の全てを無駄なものとして排除する生き方になってしまうかもしれません。

足元に咲いている花にも気づかず、面白そうな脇道にも入らず、できるだけ早く、一直線に進むのみの人生。それは人生のほとんどを占める「何かに到達する過程」を味わおうとしないものとなります。それはさぞかし、人生を短く感じさせることでしょう。

スティーブ・ジョブスは、「人生は振り返ったときに、複数の点が線に繋がっている。それは、結果的に線だったと気が付くだけで、今は気が付けない」と述べ、「現在興味があることに熱中すること」の大切さを説いています。

 

「自分には、特別に叶えたいと思う夢がない」

こう思い、焦ってしまうことがあるかもしれません。周りには、明確な目標に一直線に突き進んでいる人がいるのに、こんなんで自分は良いのだろうか・・・と。

しかし、ないならないで、周りにあわせようとして焦って無理やり大目標を掲げる必要はない。大きな目標なんてなくても、今目の前にあることに真摯に取り組んでいくことで、自分でも思いもかけないところまで行ける。ジグザグに進む、継ぎ接ぎだらけでよい。私は、そう思います。

 

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