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M&A、特に企業買収を成功させることの難しさについて⑦ 必要のない買収が行われる場合

      2017/01/20

決してあってほしくない、必要のない買収が行われる場合

これまで、「買う必要のない会社を買うようなことにはならないように注意してください」「企業買収は自社の事業を発展させるための手段に過ぎない」というお話をしてきました。

 

もしかすると、これまでこのブログを読んでいただいた方のなかには、「買う必要のない会社を買ってしまうことなんて、滅多にないだろう」と思っている方もいると思います。

 

私もそうであってほしいと思います。

 

しかし、前にも描いたとおり、日本の企業による海外企業の買収で、買収後うまくいっていない現状を見ると、結果としては、「買うべきではない企業を買ってしまっていたことになるのではないか?」と私には思えるのです。

 

例えば、そのような「買うべきではない企業を買ってしまうことになる原因」としてはいくつか考えられますが、今日は、その中で最もあってはならないと私が考える原因について考えてみたいと思います。

 

 

・役員や経営幹部らの出世欲望

 

 

企業買収は、極めて特殊な仕事だと思います。

 

企業法務や、経営企画部などに所属した場合、自社が他社との事業提携を積極的に推進しようとしている場合には、割と携わることがあるかもしれません。しかし、そうではない方々が、企業で働いている間に、企業買収に直接・間接問わず、かかわることは、かなり少ないと思います。関わることはまずないというの方が正しいかもしれません。

 

もしも企業買収、しかも規模の大きな企業買収のメンバーに選ばれ、見事に買収手続きをやり終えた場合、そのメンバーとして仕事をした方は、おそらく、社内や部内で高い評価を得ることになると思います。

 

なぜなら、そうそう誰もが経験するわけではない案件に関わり、それを最後までやり遂げたわけですから。

 

そして、企業買収をやり遂げたときに社内でもっとも評価されるのは誰かと言えば、その企業買収のプロジェクトのリーダーでしょう。

 

会社にもよると思いますが、それはその事業のトップだったり、その事業担当の役員だったりするでしょう。

 

事業部長だった人は役員になれるかもしれず、役員だった人はさらに上の役員に昇進できるかもしれません。

 

もしかすると、社長であっても、「自社の株価を上げて世間での評価を得たい」と思う人も中にはいるかもしれません。

 

もちろん、通常の取引で売り上げを伸ばすことに貢献した人は社内で評価されるでしょうが、企業買収は、規模にもよりますが、社内外問わず、より高く評価されやすい傾向があるように思います。

 

この点、企業買収によって、会社は、その買収の対象となった会社を子会社として傘下に組み入れた場合、その子会社となった会社の分だけ規模が大きくなったということができます。したがって、企業買収は、取引で自社の売り上げを伸ばしたことと同視できる(場合によってはそれ以上)、ということも言えるかもしれません。

 

しかし、以前お話ししたように、企業買収は、買収時点では本当にその企業買収が適切だったのか、事業計画をその後実現できるのかどうかわからない状況にあります。そのため、企業買収手続きを完了したことそれ自体を高く評価される、というのは不思議な気はしないでしょうか?

 

私は、役員クラスの方々の昇格基準にいかなるものがあるのかは知りません。しかし、このレベルの人たちの昇格基準は、おそらく、特定の部門の売り上げを伸ばすことに貢献することもそれなりに重要視されると思いますが、会社全体の評価が上がることに貢献した人をより重要視するようなルールになっている会社もあるのではないでしょうか。

 

その場合、企業買収手続き完了後に、新聞等のマスコミによる報道により、自社の株価が上昇したりすることもあるでしょうから、これにより、「会社に大きく貢献した」という評価をされて、昇進していく、ということはよくあることなのではないかと推測します。

 

すると、それなりの地位にいる人の中には、こう考える人がいても不思議ではないと思います。

 

「企業買収を成功させて、もっと昇進したい」

 

私は、「もっと昇進したい」と思うことそれ自体は、全く自然なことだと思いますし、よくないことだとも思いません。

 

人は、誰でも、できれば昇進して、より多くの報酬を得たいと思うはずです。また、そういう思いが、世の中を発展させてきたのだろうと思います。

 

しかし、これが行き過ぎるとやや問題が生じるかもしれません。

 

問題とは、つまり、「とにかく企業買収をしなければ!」という気持ちになってしまうことです。

 

このような気持ちが強くなると、以前お話しした、「企業買収の必要性の検討が形式的になってしまう」という事態が生じかねません。

 

例えば、相手の会社について検討を進めていくうちに、「この会社を買収してもあまり意味ないかも」とわかってきたとします。

 

しかし、企業買収プロジェクトメンバーのトップの人が、「何が何でも早く企業買収を進めたい!」と思ってしまうと、その検討結果を軽視し、「いや、買収すれば、その後何とかなるだろう」と言って、手続きを推し進めることもできてしまうかもしれません。プロジェクトメンバーの何人かは、「買収しない方がよい」と思ったとしても、リーダーに強く言われると、そこは会社員としては、リーダーの判断に従う、ということになるのは、これもまた自然なことであると思います。

 

この点、「例えプロジェクトリーダーが買収を進めようとしても、そのような買収の必要性が薄い案件では、重役の人たちが集まる社内会議で却下されることになるだろう」とも思えます。

 

しかし、買収の必要性やメリットというのは、割と容易に説明できてしまうものではないでしょうか。

 

というのは、買収の必要性やメリットというのは、「将来の話」だからです。

 

みなさんの会社でも、事業計画を立てることはよくあると思います。

 

事業計画は、華やかなもの、ときには、バラ色なものであることが多いのではないでしょうか。

 

そして、その根拠も、将来の事象ですから、とりあえず言ってみようと思えば言えてしまう、ということはよくあるのではないでしょうか?

 

企業買収における事業計画も、作ろうと思えばいくらでも作ることができるだろうと私は思います。

 

特に、企業買収における事業計画は、相手方企業の業績や対応にかかっているものですから、「自社の役員等の重役の方々がどこまでその確からしさを検証できるのか」という問題もあります。

 

 

「いや、会社の利益にならないかもしれないのに、自分の欲望のために企業買収を進めようとする人なんて、いるわけがない!」

 

こう思う方もいらっしゃるでしょう。

 

そうですよね。

 

そうかもしれません。

 

私がうがった見方を持っているだけなのかもしれません。

 

ただ、一つ言えるのは、こういう欲望を持っている人がいたとしても、それは他人からはわかりにくい、ということです。

 

というのは、そういう欲望を持っている人が、本心を口にするはずがありません。

 

人は、その人の考えていることを、外部に現れた言動から判断することしか基本的にはできません。

 

欲望を持った人は、「買収をしない方がよい」とアドバイスする人に対して、おそらくこう言うでしょう。

 

「できない理由じゃなくて、できる理由を考えよう!」

 

「最初からできないと言っていたら、何もできないだろう?」

 

「成功するかしないかは、やってみないとわからないんだ。重要なのは、失敗を恐れずにチャレンジすることだろう?」

 

どれも、よい言葉です。

 

こういわれると、「買収をしない方が賢明だ」とアドバイスしている人の方が、何やら臆病者といいますか、チャレンジ精神のない人、というようにすら思えてきてしまいませんか?

 

では、このように、自分の欲望のために企業買収を進める、ということが万が一にも起きないようにするためにできることは何かあるのでしょうか?

 

もちろん、従業員・役員個人個人のモラルを高めるということも対策の一つでしょう。

 

また、買収を進めるか否かの判断は、客観的に行い、根性論で決めない、ということも対策になるかもしれません。

 

ただ、これらはなかなか効果が期待できないことがあるかもしれません。

 

私が考える対策は、以下のようなものです。

 

「企業買収手続きの完了を、社内で不当に高く評価しないことにする」

 

企業買収に異常に執念を燃やす人が、それによって自分が評価されることになることを期待しているのだとすれば、そもそも、企業買収手続きを成し遂げたということをもって昇進の対象にしないという社内の評価制度を作ればよいのではないでしょうか。

 

実際、買収手続きの完了は、前回お話しした通り、目的ではなく、手段であり、目的である企業の発展に向けた始まりに過ぎないのです。本当に難しい仕事は、買収後にその企業を上手に活用し、自社をより強い企業にすることなのではないでしょうか。つまり、「経営そのもの」です。

 

買収手続きそれ自体は、確かに、通常の取引とは異なり、分厚い契約書の締結が必要になったり、買収対象の株主との交渉があったりと複雑な点があり、時間と労力を要するプロジェクトであるということができるかもしれません。

 

しかし、実はこれも、誤解を恐れずに言えば、何が何でも買収手続きを進めようと思ったら、どんどん妥協していけばよいだけなのです。買収金額が多少釣り上げられても、買収条件が多少通常の買収の場合よりも買い手に不利なものを突き付けられても、妥協すれば買収契約は締結できます。

 

それに比べて、買収後の経営はそのようなものではありません。自社のある事業の業績を今よりも上向かせることにはどこの企業も非常な苦労をしていることと思いますが、それを、これまで全くの他社であった企業を活用して行わなければならないのです。これは至難の業ではないでしょうか。このことを考えると、買収手続きそれ自体と、買収後の経営のどちらが困難であるのかは一目瞭然ではないでしょうか。そして、本当に評価されるべきは、「買収手続きを完遂したこと」ではなく、「その後事業を軌道に乗せるために奮闘した方々」だと私は思います。

 

しかし、現実は、買収手続きを完了させた方々は高く評価され、数年後、その経営がうまくいかない場合には、その経営を担当している別の方々が責任を問われる、ということになっていることはないでしょうか。つまり、「せっかくいい会社を買ったのに、その後の経営が下手なのはお前らのせいだ!」ということは起きていないでしょうか。

 

もしかすると、経営がうまくいっていないのは、そもそも、「買うべきでない会社を買ったことに大きな原因がある」という場合かもしれないのに・・・。

 

 

 

今回は、起きる可能性としては極めて稀な事態(稀であって欲しい事態)を取り上げてみました。

 

こんなことが原因で企業買収が行われたりしないでほしいですね・・・。

 - M&Aの難しさについて