constructive acceleration~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑬の補足~

accelerationとは、「予定よりも仕事の進捗ペースを速めること」であることは一度解説しました(詳しくはこちら!)。
通常、このaccelerationは、オーナーからの「仕事のペースを速めて欲しい」という依頼がコントラクターに対してなされたのを受けて、コントラクターがそれによって生じる追加費用を見積もり、オーナーに提示し、その金額で両者合意することでなされるものです。
というのも、これは、要は「仕様変更」に当たるからです。
仕事の進捗ペースを速めるためには、通常、人員をより多く投入するしなければならず、それは仕事の仕方を変更する行為だからです。そして、この場合、追加費用が生じるのが通常です。
よって、コントラクターは、このaccelerationによって追加で生じる費用をオーナーに対して請求することになります。
constructive acceleration
ここで、この通常のaccelerationとは異なる次のような場合も考えられます。
まず、本来ならば納期延長が認められるような事象が起こりました。
そこでコントラクターが納期延長クレームをオーナーに対して行いました。合わせて、納期延長に伴って生じる追加費用のクレーム(prolongation claim)もしました。
しかし、オーナーがこれを認めませんでした。
この場合、コントラクターは、契約書に定められている紛争解決条項に従って、裁判や仲裁で争うことができます。
争った結果、コントラクターが勝てば納期延長を得ることができますが、もしも負ければ、納期は延長されません。
そこで、コントラクターには2つの選択肢があることがわかります。
選択肢①
「絶対に納期延長を認めてもらえるはずだ」と考えて、工事の進捗ペースは変えずに、予定通り仕事を進める。この場合、当然、当初の納期には間に合いません。だから、仲裁や裁判でコントラクターの主張が認められればコントラクターにはなんら不都合はありませんが、もしもコントラクターが仲裁や裁判で負ければ、納期に遅れた分を納期遅延LDとしてオーナーに支払わなければならなくなりますし、また、納期延長に伴って生じる追加費用も自分が負担することになります。
選択肢②
「納期延長が裁判や仲裁で認められないかもしれない」と考え、自発的に仕事の進捗ペースを速めて、最初の納期に間に合うようにする。この場合、最初の納期に間に合えば、納期遅延LDの負担は生じないし、納期延長に伴って生じる追加費用も発生しませんが、ただ、ペースを速めることで、追加費用が生じます。
コントラクターとしては、このどちらがよいのか。
コントラクターがこのどちらを選ぶかで迷うのは、選択肢①では、コントラクターが確実に仲裁や裁判で勝てるかどうかは、やってみないとわからないからです。もしかすると経験未熟な仲裁人や、この業界に詳しくない裁判官によって、おかしな判断が下る可能性もあります。
一方で、そうかといって選択肢②を選んだ場合、つまり、自らの判断で仕事のペースを速めた場合、それは、通常のaccelerationとは異なり、オーナーから求められてペースを速めたわけではないので、仕様変更としてその追加費用をオーナーに負担してもらえない可能性があるのです。つまり、「コントラクターが勝手に仕事を速めた」として、それによって生じる追加費用はコントラクターが負担することになるかもしれないという恐れがコントラクターには生じます。
このように、どちらを選ぶか、コントラクターは悩まなければならなくなります。
しかし、そもそも、この悩みの原因は、オーナーが、コントラクターからなされた納期延長・追加費用クレームを認めないことが問題なのです。悪いのは、オーナーなのです。
よって、このような場合には、コントラクターが自発的に仕事のペースを速め、それによる追加費用について両者間で合意に至っていなくても、その追加費用はオーナーが負担するべきだといえます。
ただし、無制限に認めるとなるのも問題です。コントラクターが自分の判断で、本来必要ないのに仕事のペースを速めた場合にまでそれによって生じる追加費用をオーナーに請求できるということになったら、それはそれで不公平だからです。
そこで、米国では、このような場合には、次のような6つの基準を設けて、これらをクリアした場合にのみ、コントラクターによる自発的な仕事のペースを速める行為によって生じる追加費用をオーナーの負担とするようにしています。
1.納期延長となるべき事象(Force Majeureやオーナーの契約違反)が生じていること
2.コントラクターが契約書に従い、適切に納期延長クレームをしたこと
3.本来認められるべき納期延長クレームについて、オーナー側(architectやcontract administraterも含む)が認めなかったこと
4.加えて、オーナー側が最初の納期までに間に合うように求めたこと、または求めているかのような行為をしたこと
5.仕事のペースを速めるためにコントラクターに追加費用が生じたこと
6.仕事のペースを速めるためにコントラクターに生じる追加費用は見積もり段階で、最初の納期に遅れた場合に生じる追加費用と納期遅延LDの合計金額の範囲内であること
上記の6は、もしもペースを速めるために生じる追加費用が、納期に遅れることで生じる追加費用と納期遅延LDの合計額よりも多いなら、コントラクターがあえてペースを速める必要性に乏しかったということになるからです。そのような場合には、コントラクターは選択肢①を選び、とことん仲裁や裁判で争えばよいだけなのです。
まとめると、
・上記の様な特殊な状況(本来は納期延長・追加費用クレームが認められるべき場面でオーナーがそれを拒否した結果、コントラクターがペースを維持するか速めるべきか悩む場面)では、
・コントラクターが自発的にペースを速める行為は、本来のaccelerationの手続きに従ったものではないものの、
・ただ、コントラクターが上記の基準をクリアする状況に置かれた場合には、
・自発的にペースを速める必要性があるし、
・また、オーナーに過度に不当な負担をさせることにもならないので、
・accelerationとみなして、
・それによって生じる追加費用をオーナーに負担させる
という考え方です。
本来のaccelerationとは異なるが、「そうみなす」、ということで、constructive accelerationと呼ばれています。constructiveとは、「擬制」、つまり、「本来はそうではないが、そのようにみなす」という意味だからです(deemed accelerationという名称でも良いような気がしますが、constructive accelerationと呼ばれています)。
もちろん、これは米国での話であり、どこの国でも同様にconstructive accelerationが認められるかはわかりません。しかし、コントラクターが置かれた状況が仲裁人や裁判所に適切に伝えられれば、「本来のaccelerationの条件を満たしていない」として、一刀両断に切り捨てられる可能性は低いと思います(※英国でも、上記と同種の基準のもとでconstructive accelerationが認められているようです)。
(※参考文献:200 Contractual Problems and their Solutions (Roger Knowles) /Construction Delays Extensions of Time and Prolongation Claims (Roger Gibson))
そして、コントラクターとしては、constructive accelerationが認められやすくなるように、自発的にペースを速める場合でも、事前にオーナーに対してその旨の通知をしておくことをお勧めします。オーナーはそのような通知を受けても、通常のaccelerationと認めてくれはしないかもしれませんが、何らの通知もしないでいきなりペースを速めるよりも、仲裁や裁判でコントラクターが置かれる地位は有利なものになるはずです。
【Delay Analysisの解説の目次】
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~ | |
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