Delay Analysisの手法⑦ 工事の進捗状況に関するデータの保存義務について~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識21~

      2019/11/26

ここ数回に渡り、Delay Analysisの手法について解説してきました。

 

そして、どうやら、Time ImpactWindowsと呼ばれる手法が、手間はかかり大変そうだが、正確性の面では信頼できそうだ、つまり、コントラクターの立場としては、納期延長や追加費用を認めてもらうためには、この手法を用いれば、オーナーから「コントラクターは立証責任を果たしていない」と反論される余地を少なくできそうだ、と感じていただけたかと思います。

 

ただ、ここで1つ疑問を感じる方もいるかもしれません。それは、この2つの手法は、工事の進捗状況を記録して保存しておかない限り、as planned programを更新させることができない、つまり、進捗状況のデータの取得・保存がないと、Time ImpactもWindowsも実施できないが、そもそも、通常のEPC契約中に、進捗状況の保存義務など、定められているものなのか?と。

 

この点は、契約書によるといえばそうなのですが、実は、結構書いてあることが多いのです。

 

そして、もしかすると、この手の条文は、損害賠償云々という話が直接的には出てこないため、見過ごされがち、チェックを怠りがちですが、ちゃんと定められていることが多いのです。

 

例えば、以下のような条文です。

 

Monthly Status Report

On or before the tenth Day of each month (unless some other frequency is agreed upon by the Parties), the Contractor shall submit to the Owner, for the Owner’s review and comment, a written status report covering the prior month (a “Monthly Status Report”).

This shall include (i) a description of the progress of the Work against the Project Schedule, including critical path activities interconnected by schedule logistics, (ii) a statement of significant issues which remain unresolved and Contractor’s recommendations for resolving the same, (iii) a summary of significant Plant events which are scheduled or expected to occur during the following interval, and (iv) additional information reasonably requested by the Owner.

 

Status Meetings

The Contractor shall attend and participate in regular meetings with the Owner which shall occur monthly (or upon such other interval as the Parties agree) for the purpose of discussing the relevant Monthly Status Report (if applicable) and anticipating and resolving problems.

 

上記を簡単にまとめると、次のようになります。

 

1.コントラクターは、毎月、先月中の仕事の進捗状況をまとめた報告書をオーナーに提出しなければならない。

2.コントラクターは、毎月、仕事の進捗状況に関する会議に参加しなければならない。

 

このように、契約書に定められているのです。

 

この場合、当然、毎月この通りにしなければならず、そして、これが適切になされているなら、少なくとも、Windowを毎月ベースとしてDelay Analysisを行うための進捗データが揃っているとしても不思議ではないでしょう。

 

また、どこまで細かくできるかはともかく、Time Impactの実施もそれなりにできるのではないでしょうか。

 

上記の様な進捗データ保管義務に関する条文は、例えば、FIDICやENAA、さらにはその他のいわゆる契約雛形・標準契約などにも盛り込まれているのです。

 

ちなみに、この手の条文が見落とされがちな理由として、上で、損害賠償云々の話がでてこないから、と書きましたが、確かに、文言としては、damagesやliabilityという文言は使われないものの、この進捗データの取得・保存が適切になされないと、信頼性あるDelay Analysisを実施することができなくなります。すると、コントラクターのせいではない何かの事象で工事に遅れが生じ、それがcritical path上の工事だった場合には、最終的には納期を遅らせることになるので、コントラクターは納期延長・追加費用のクレームをオーナーにすることになりますが、そのクレームがオーナー、裁判、そして仲裁などで認められにくくなります。

 

納期延長のクレームが認められなければ、コントラクターとしては、納期遅延LDを支払う責任を負うことになります。

 

追加費用の請求が認められなければ、コントラクターが自分でその費用を負担しなければならなくなります。

 

つまり、どちらの場合でも、コントラクターから資金が出ていくことになります。損失の発生です。

 

よって、この手の進捗状況のデータの取得と保管義務を定める条文は、その中に損害賠償や責任と知った文言こそ使われていないものの、それらと関係のある条文といえるのです。

 

そして、このような条文が定められていたにも関わらず、コントラクターが適切にデータを取得・保存していないことで、納期延長・追加費用のクレームの根拠がお粗末なものになっていた場合には、「契約上の義務に従ってデータを取得・保存していない」という落ち度がコントラクターにあるということになってしまいます。そうなれば、クレームが認められない方向になってしまう可能性もあるでしょう。

 

以上から、そもそも、契約書で義務付けられていなくても、進捗状況のデータの取得・保存は重要なものですが、契約書で明記されていれば、なおさら無視できない事項になるといえます。

 

ちなみに、英国プロトコルでも、工事の進捗状況のデータの取得・保存については、コントラクターとオーナー間で工事開始前に合意しておくことが望ましい、としています。そうすれば、何をどの程度までしておくべきかが明確になり、後から、「この程度では立証責任を果たしたことにならない」(オーナーから)とか、「そこまで細かなデータの取得・保存は現実的ではない」(コントラクターから)といった争いが生じる余地を少なくでき、クレームの処理・解決にかかる時間を短縮できるでしょう。

 

工事の進捗データの取得・保存をないがしろにしないように、契約条文をよく読み、どのようなデータの取得・保管義務が求められているのかを意識してチェックし、その実現に取り組んでいただければと思います。

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~

 

 - Delay Analysisの基礎知識