Delay Analysisの手法④ 補足~EPC契約・建設契約に添付される工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑱~

      2019/11/24

EPC契約や建設契約には、工程表が添付されるのが通常です。

 

工程表とは、プラント完成までに必要となる仕事を時系列に並べたものです。

 

どの仕事をいつ始めて、いつ終えて、その後いかなる仕事を行うか、ということが大量に連ねられたものです。

 

そして、通常、契約書に添付されたものは、契約書の一部を構成することになっています。

 

つまり、添付書類にも法的拘束力が生じます。

 

法的拘束力とは、義務を負い、その義務を果たせない場合に相手方が被った損害を賠償しなければならなくなり、それを裁判所が強制させることです。

 

では、工程表が契約書に添付されている場合、コントラクターは、その工程表に従って仕事を進めなければならないのでしょうか。

 

この点、「もちろん、そうだ」と答える人も多いでしょう。工程表に従わなくてよいのならば、なぜ工程表を契約書にわざわざ添付するのか、ということになるからです。

 

しかし、ここで問題にしているのは、「工程表に記載されている1つ1つの仕事を、全て、工程表に記載されている通りにすることは、コントラクターの義務なのか?それに少しでも違反すれば、オーナーに損害賠償をしなければならなくなるのか?」ということです。

 

この点、実際には、コントラクターは、途中の工程にどんなに遅れたとしても、最後、納期に間に合いさえすれば、オーナーに対して納期遅延LDを支払う責任を負わないことになっています。途中に工程に遅れたことでコントラクターがオーナーに賠償責任を負うのは、中間マイルストーンLDが明記されている場合だけです(中間マイルストーンについてはこちら!)。

 

このことは、実際には、コントラクターは工程表中の全ての仕事を正にその通りに遂行する義務までは負っていない、ということになるでしょう。

 

そもそも、契約書に何かが添付されていても、それだけでその添付書類中に記載されている内容が契約書に一部になるとは限らないのです。

 

契約書を構成するものが何かは、契約書中に定められています。特に、EPC契約や建設契約では、1条や2条といった初めの方に、様々な添付書類名が定められており、それらが契約の一部であること、そしてそれらの文書間の優先順位が定められます。

 

このとき、通常は、工程表は、添付書類ではあるものの、契約書である、とは明記されていないことの方が多いのです。

 

つまり、工程表は、契約書に便宜的に添付されはするが、法的拘束力を持つ契約書の一部としては扱われないのが通常なのです。

 

ただ、納期だけは別です。納期だけは、契約書中に明記されます。ここに法的拘束力が生じないなどということはまずありえません。つまり、途中の過程はどうであれ、最後の納期を守ることはコントラクターの義務なのです。

 

この点、どうして工程表中の仕事の進め方に法的拘束力を生じさせないのかと疑問を感じる人もいるでしょう。私も最初はそうでした。

 

その理由の1つは、納期に間に合えばそれでよい、ということですが、他に、そもそも、計画通りに全ての仕事を遂行するなど、無理だから、だと考えられます。

 

プラント建設に必要な仕事は、本当に膨大な数に上ります。

 

その1つ1つの作業を、その通りにするなど、土台無理なのです。

 

その無理を強制させようとすると、却って仕事が進まなくなることもあるでしょう。

 

現場の判断で、仕事を進めて行く中で、仕事の順番を入れ替えたり、ある仕事を早めたり、ということができた方が、コントラクターにとってやりやすいのです。

 

それを、細かく全て拘束してしまったら、融通が利かなくなります。

 

また、少し工程を変更するにも、契約違反だとか、仕様変更だという話になり、面倒になります。

 

とにかく、オーナーとしては、最後に納期に間に合えばそれでよいのです。経済的には何等問題ないのです。

 

そうであれば、工程表中の様々な仕事の始期・終期は、コントラクターに任せる、というスタンスを取った方がよいわけです。

 

上記の様な理由で、工程表は、契約書に添付されるかもしれないが、しかし、契約書ではない、つまり、法的拘束力は生じないとされているのが通常なのです。

 

もっとも、仕事が始まると、一定期間ごとにコントラクターとオーナー間で工程の進捗報告会が開催されます。工程表と比べて、何がどう進んでいるのか、遅れているのかをチェックするのです。

 

工程表に従うことは義務ではないとはいえ、そこからずれていることは、納期に影響が出る可能性を秘めています。そこでオーナーは、その理由や遅れている対策をコントラクターに取らせ、納期を死守させようとするのです。

 

これは、最後の納期に間に合わせるためのものであり、だからといって、工程表中に定められている全ての仕事をその通りにしなければ、コントラクターが何か責任を負う、という意味ではありません。

 

この点が微妙でわかりにくいかもしれませんが、工程表は、そういう位置づけ(法的拘束力はない。1つ1つの仕事を工程表の通りにできなくても、コントラクターは損害賠償責任を負わない。しかし、工程表からの遅れは納期の遅れに繋がるから、オーナーは進捗を気にして工程表と比較し、遅れているようなら改善策をコントラクターに立てさせる。工程表はそのための道具)なのです。

 

そして、工程表を変える際には、オーナーにそれを提出し、承認を得なければならないことになっています。このことも、一見、工程表は契約書の一部なのではないか?と思える点ですが、これも、あくまで、最新の予定をオーナーに把握してもらうためであり、工程表中の1つ1つの仕事の進め方を拘束するためではないのです。

 

もしも、EPC契約や建設契約に、「工程表は契約書の一部を構成する」と定められていた場合には、修正したほうがよいでしょう(実際、いわゆるモデルフォームと呼ばれている契約雛形の中には、工程表が契約書を構成する文書の中に含まれていないものが多いです)。

 

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration
フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較

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