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本郷塾で学ぶ英文契約

英文契約で重過失(gross negligence)どんな意味?

2024/01/13
 

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英文契約基礎から実践講座

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売買契約や請負契約には、以下のような条文が定められることがよくあります。

 

Notwithstanding anything to the contrary stated in this Contract, the Supplier’s liability to the Purchaser under this Contract shall be limited to an amount equal to one hundred (100%) percent of the Contract Price; provided, however, that such limitation of liability shall not apply to any loss or damage arising out of or connected with the Supplier’s gross negligence, fraud, or willful misconduct.

「本契約に反対のことが定められている場合でも、それにも関わらず、売主の買主に対する本契約に基づく責任は、契約金額100%に制限される。ただし、かかる責任制限は、売主の重過失、詐欺、または故意から生じる、またはそれらに関する損失・損害には適用されない。」

 

つまり、原則として、売主の責任は契約金額を上限とするが、売主の故意・詐欺・重過失の場合には、そのような上限は適用されず、売主は、買主に生じた損害を全て賠償しなければならない、ということです。

 

ここで、故意はわざと、詐欺は騙すこと、とわかりますが、重過失とは何なのか?というのはよく問題になる点です。

 

というのも、ただの過失というものがあり、それと重過失の区別がよくわからないからです。

 

この点、日本の法律でも、重過失という文言が定められていることがときどきありますが、その内容までは定められていません。

 

一般には、「故意に匹敵するような注意義務違反」とか、「わずかの注意を払えば回避できたのに、そのような注意すら怠った場合」といわれたりしています。

 

では、海外ではどうなのか。

 

例えば、米国のカリフォルニア州法の下でのgross negligenceは、次のように解釈されています。

 

want of even scant care or extreme departure from the ordinary standard of conduct

 

want of even scant care

わずかの注意すら欠いたこと」

※wantは名詞で「欠如」「足りないこと」という意味があります。

 

extreme departure from the ordinary standard of conduct

「通常レベルの行動規範からの著しい乖離

 

上記から、日本で考えられている重過失とそう変わりないものであると想像されます。

 

では、「些細な注意」とは、何か、scant careとは何か、extreme departureとは何か。

 

これは、問題となっている案件ごとに異なり、一義的にはいえません

 

ただ、ここで1つ重要となるのは、gross negligenceとは、基本的に、「結果の重大性」とは直接の関係はない、ということです。

 

凄まじい大損害が生じたからといって、そのことが直ちにgross negligenceであると判断されることになるわけではないのです。

 

この点、「とんでもない大損害」が生じる結果になることが予想されるような場面で契約当事者に期待される注意義務の程度が、通常の場合よりも高度なものとなり、その結果、gross negligenceと認定されやすくなる、という影響はあるかもしれません。

例えば、せいぜい生じても100万円程度の損害しかし生じないだろうと思われているような場合に契約当事者に期待される注意義務の程度をAとすれば、100億円の損害が生じると予想される場合に期待される注意義務の程度はBで、AとBの関係は、B>Aということはあるかもしれません。

 

しかし、それは、契約当事者が負うべき注意義務の程度に違いを生じさせることがあるというだけで、「莫大な損害が生じたからgross negligenceとなる」と直ちにいうことではないのです。

 

ときどき、買主側から、「こんな莫大な損害を生じさせたのだから、これは売主の重過失に違いない!」といわれることもあるかもしれません。

 

そういわれると、売主としては、「確かに・・・」と思ってしまうかもしれません。

 

しかし、「結果の重大性」と「重過失やgross negligenceとなるかどうか」は、直接関係するものとはいえないのです。

 

買主としては、責任制限条項があるため、上記の様に主張して、なんとかこの条文の適用を排除しようとしてくるかもしれませんが、そのようなときは、この記事を思い出して、冷静に対処していただければと思います。

 

目次
第1回 義務 第10回 ~に関する 第19回 知らせる
第2回 権利 第11回 ~の場合 第20回 責任
第3回 禁止 第12回 ~の範囲で、~である限り 第21回 違反する
第4回 ~に定められている、~に記載されている 第13回 契約を締結する  

第22回 償還する

第5回 ~に定められている、~に記載されている (補足) 第14回 契約締結日と契約発効日 第23回 予定された損害賠償額(リキダメ、LD)
第6回 ~に従って 第15回 事前の文書による合意 第24回 故意・重過失
第7回 ~に関わらず 第16回 ~を含むが、これに限らない 第25回 救済
第8回 ~でない限り、~を除いて 第17回 費用の負担 第26回 差止
第9回 provide 第18回 努力する義務 第27回 otherwise

 

 

第28回 契約の終了

第38回 権利を侵害する 第48回 遅延利息
 

第29回 何かを相手に渡す、与える

第39回 保証する 第49回 重大な違反
 

第30回 due

第40回 品質を保証する 第50回 ex-が付く表現
第31回 瑕疵が発見された場合の対応 第41回 補償・品質保証 第51回 添付資料
第32回 ~を被る 第42回 排他的な 第52回 連帯責任
第33回 ~を履行する 第43回 第53回 ~を代理して
第34回 果たす、満たす、達成する 第44回 第54回 下記の・上記の
第35回 累積責任 第45回 瑕疵がない、仕様書に合致している 第55回 強制執行力
第36回 逸失利益免責条項で使われる様々な損害を表す表現 第46回 証明責任 第56回 in no event
第37回 補償・免責 第47回 indemnifyとliableの違い 第57回 for the avoidance of
 
第58回 無効な 第68回 representations and warranties
第59回 whereについて 第69回 material adverse effect
第60回 in which event, in which case 第70回 to the knowledge of
第61回 株主総会関係 第71回 GAAP
第62回 取締役・取締役会関係 第72回 covenants
第63回 indemnifyとdefendの違い
第64回 Notwithstandingと責任制限条項
第65回 M&Aの全体の流れ
第66回 conditions precedent
第67回 adjustment

【私が勉強した参考書】

基本的な表現を身につけるにはもってこいです。

ライティングの際にどの表現を使えばよいか迷ったらこれを見れば解決すると思います。

アメリカ法を留学せずにしっかりと身につけたい人向けです。契約書とどのように関係するかも記載されていて、この1冊をマスターすればかなり実力がupします。 英文契約書のドラフト技術についてこの本ほど詳しく書かれた日本語の本は他にありません。 アメリカ法における損害賠償やリスクの負担などの契約の重要事項についての解説がとてもわかりやすいです。
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