mitigationとaccelerationについて ~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑬~

      2019/11/26

mitigationという言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 

これは、「最小化」という意味です。

 

EPC契約では、納期に遅れが出る場合に、コントラクターは遅れを最小化する義務を負っています

 

例えば、次のような条文がそれです。

 

The Contractor shall constantly use his best endeavors to prevent delay in the progress of the Works, however caused, and to prevent the completion of the Works being delayed.

「コントラクターは、仕事の進捗における遅れを防止するために、そして、もしも遅れが生じた場合には、仕事の完成(納期)に遅れが生じないように、最大限の努力を常に果たさなければならない。」

 

ここで問題です。今、オーナーの原因で、クリティカルパス上のコントラクターの仕事が10日間遅れることになりました。その結果、納期も10日間遅れる見通しとなりました。

 

ここで、オーナーがコントラクターに言いました。

「契約書に定められているmitigation義務にしたがって、この10日間の遅れを取り戻してくれ。ちなみに、これは契約書上明記されている義務だから、無償対応だよ。」

 

さて、コントラクターはこれに対して何と回答すればよいでしょうか?




この点、もしかすると、オーナーに言われた通りに無償で10日間の遅れを取り戻すべく、当初の予定よりも投入する人員を増やそうとするコントラクターもあるかもしれません。つまり、10人で20日間かかる仕事に、20人を投入して、10日間で終わらせようとするかもしれません。確かに、できないことではないでしょう。

 

しかし、10人から20人に人を増やすことで当然費用が生じるはずです。この費用をコントラクター負担とするのは果たして公平でしょうか?

 

そもそも、この遅れは、コントラクターのせいで生じたわけではない(例ではオーナーのせいで生じた)のです。とすれば、それによって生じる影響は、オーナーが負うべきでしょう。つまり、追加費用はオーナーが負担するべきです。

 

「しかし、契約書に、最小化義務がコントラクターにあると定められているのだから、しょうがないではないか!」

 

とこう思うかもしれませんが、このmitigation義務とは、追加費用を負担してまでコントラクターが果たさなければならないもの」では通常ありません

 

そもそも、このmitigationは、影響最小化義務です。もっというなら、影響が拡大しないように努力する義務です。しかも、追加費用が生じない範囲でです。

 

例えば、大雨が降り続き、サイトで大洪水が起こり、10日間程水が引かなかったために、その間工事を遂行することができない事態となったとします。

 

この大雨が降り始めたとき、サイトの低地にある建設用機器や資材などを、そのまま低地に置いておけば、大洪水によって水に浸ってしまう、あるいは流されてしまう可能性がありました。

 

そのような事態になるのを防ぐために、これらを比較的高い場所に移動して保管するようにする、という作業は、mitigation義務の範囲に入ると考えてよいでしょう。このような作業を行うために、当初の予定よりも人員リソースを増やす必要も、追加費用が生じることもおそらくないでしょう。

 

しかし、それを超えて、大洪水で遅れた10日間の工程を取り戻すために人員リソースを増やすことは、もはや、影響最小化義務・影響拡大防止義務ではありません。これは、工事の完成を速める行為、つまり、accelerationです。

 

このaccelerationは、いってみれば、仕様変更(Variation/Change)と同じです。

 

当初の予定よりも仕事をするペースを速めることになるからです。スケジュールを変更する行為です。

 

仕様変更の場合には、もちろん、コントラクターはオーナーに追加費用を請求しますよね?

 

このaccelerationも同じです。

 

一度、納期が延長される事象(コントラクターが納期延長クレームをなしえる事象)が生じた、つまり、納期が延長される事態に陥ったのを、元の納期に間に合わせるようにすることは、仕事の遂行予定を変更することなのです。このような行為をaccelerationと呼びます。

 

というわけで、最初の質問への回答は、「それはmitigation義務の範疇を超えています。一旦生じた遅れを取り戻すための行為は有償対応となります。仕様変更の手続きに従って処理します。」とオーナーに回答することになります。

 

そして、実際に仕様変更の手続きに従ってクレームをします。

 

もしもこのような手続きを経ずに、つまり、クレームをせずにオーナーの言われた通りに仕事を行うと、それが終了した後で追加費用を求めても、そのときには既にクレームすべき期限を過ぎている、ということになるでしょう。すると、通常EPC契約に定められている「●日以内にクレームしないと、納期延長も追加費用ももらえない」という条文に従い、追加費用は全てコントラクターが負担しなければならない、ということになります(詳しくはこちら!)。

 

以下にまとめます。

 

mitigationは、遅れが拡大しないように努力する義務。基本的に、コントラクターに追加費用を生じさせない範囲で行うことが求められている行為。

 

accelerationは、コントラクターの当初の予定を変更して人員を増やす、スケジュールを変更して仕事完成日を速める行為。これに該当する場合には、原則として、accelerationを遂行する前に仕様変更手続きに従ってクレームをしなければならない(accelerationの手続きが契約書に明記されていることが望ましいです。実際、それが定められているものもあります)。

mitigationとaccelerationは似て非なるものです。その差は一見相対的なものに見えるかもしれませんが、「追加費用が生じるようなものか否か」という視点でみれば区別がつきやすいでしょう。

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか?
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合
同時遅延の扱い その① 納期延長について
同時遅延の扱い その② 追加費用について
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その①
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益

 

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