納期延長クレームと追加費用クレームの関係~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑫~

      2020/01/21

今回は、クレーム手続きに関する注意点を解説します。

 

納期延長クレームと追加費用クレームの関係

今、例えば、オーナーの原因でクリティカルパス上にあるコントラクターの仕事に遅れが生じたとします。

 

すると、当然、納期に遅れが生じます。

 

コントラクターとしては、納期を延長してもらうようにオーナーにクレームをしようと考えるでしょう。

 

このとき、納期が延長されるなら、追加費用も当然に生じるはずです。

 

納期が延長されるということは、その分だけコントラクターがサイトに長期間滞在しなければならなくなるからです。例えば、建設用機器のレンタル費用やサイトの光熱費などが生じるからです。

 

ここで、「納期が延長されれば、追加費用も当然生じるのだから、クレームも、納期延長についてだけすればよい」と考えることは正しいでしょうか?

 

これは誤りです。

 

納期延長のクレームと追加費用のクレームは、それぞれ行わなければなりません。

 

もちろん、別々の書類でクレームしなければならない、という意味ではありません。1つの書類で納期延長と追加費用の両方を求めることは何等問題ありません。「単に納期延長だけ請求しただけでは、追加費用は得られない」という意味です。

 

そもそも、追加費用としていくら生じたのかを立証する責任はコントラクターにあります。コントラクターが証拠を揃えてオーナーに提出しないと、オーナーとしては、いくらの費用が追加で生じるのかわかり得ないのです。光熱費がいくらかかるのかなど、コントラクターが示さなければ、オーナーにはわかりませんよね?よって、納期延長クレームをすれば、追加費用が自動的に認められる、というものではないのです。

 

クレーム期限

また、クレームには、期限が定められていることが多いです。

「遅れの原因となる事象が生じてから○日以内にオーナーにクレームしなければ、コントラクターは納期延長および追加費用をオーナーに求める権利を失う

といった条文です。

 

このような条文が定められているのに、クレームをその期間内に行わないと、コントラクターはこの条文に書かれている通りに、クレームする権利を失います。

 

つまり、納期延長も追加費用も認めてもらえなくなるのです。

 

では、もしも、次のようの条文が定められている場合にはどうなるでしょう?

「遅れの原因となる事象が生じてから○日以内にオーナーにクレームしなければならない」

 

最初の例と異なるのは、○日以内にクレームしない場合にどうなるのかが定められていないという点です。

 

この点、「クレームできなくなる」とは記載されていないのだから、そのような効果は生じない、という考え方もあり得ますが、一方で、こうも考えられます。「あえて期限を定めているのだから、その期限までにクレームしない場合には、納期延長も追加費用も得られなくなると解釈すべきだ

 

後者のように裁判所や仲裁人が判断することも十分にあり得ます。

 

そのため、契約書中にクレームに関する期限を定める場合には、「その期限を過ぎたら、もうクレームはできなくなるものなのだ」と捉えてクレーム活動をするように心がけましょう。

 

口頭でのクレーム

では、契約書に、「書面でクレームしなければならない」と定められていたとします。それなのに、単に口頭でクレームをした場合、それで納期延長や追加費用は認められるでしょうか?

 

これも、契約書に「書面で」と記載されているならば、必ず書面でしなければなりません。口頭でしたうえで、書面で重ねて請求するのはもちろん問題ありませんが、口頭だけでは、契約書に定められている条件を満たしたことにはなりません。

 

そもそも、口頭でしただけの場合には、口頭で請求を受けたオーナーの担当者が、「自分はそんなクレームを受けていない」といえば、コントラクターとしてはクレームをしたことを証明するのはかなり難しいでしょう。

 

仮に、会議か何かの場で、口頭でクレームしたことを複数人が見ていて、それを証明できるという場合でも、延長されるべき日数が何日か、追加費用がいくら生じたのか、という点について争いになる前に、そもそも、「クレームは本当になされたのか?」という点から争いになり、解決に時間がかかることになります。

 

よって、クレームは、契約書に定められている手続きに忠実に従って行うように心がけましょう。

 

議事録の回覧

ちなみに、会議体で口頭でクレームを行ったときの議事録があり、それをオーナーの担当者を含めた参加者に回覧したとしても、それは書面でクレームをしたことにはならない可能性もありますので、注意しましょう。手間を省かずに、契約書に従う、とにかくこれを心がけましょう。

 

Neutral eventとは?

最後に、これは手続き的な話ではありませんが、「納期延長がなされれば、当然に追加費用も生じる」ものの、ただ、納期に遅れが生じるその原因次第では、生じた追加費用をオーナーに請求できないものもあります。

 

これは、契約書の記載によるのですが、通常、Force Majeureが原因で納期に遅れが出た場合には、それに伴って生じる追加費用は、コントラクターが負担することとされていることが多いです。

 

このような遅れの原因となる事象を、neutral eventと呼ぶことがあります。なぜneutral(中立?公平?)なのかというと、「どちらの原因でもないから」ではありません。納期に関するリスクはオーナーが負い、一方、追加費用に関するリスクはコントラクターが負う、つまり、両当事者がそれぞれ責任を負うという意味で、neutralという言葉が付けられているようです。

 

ちなみに、Force Majeureでも、例外的に、追加費用についてもオーナーに負担してもらえる旨が契約書に定められているものもあります。FIDICにはそのような定めがあります。

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~
22

必要な立証の程度~balance of probabilities~

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

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