納期延長に伴って生じる追加費用(prolongation cost)の請求について その③因果関係と金額の立証方法 ~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑪~

      2019/11/17

前回は、コントラクターのせいでない原因で納期が延びる場合に、コントラクターがオーナーに対して請求しえる事項として、本社経費と逸失利益があり、また、本社経費には、案件に紐づいているもの、つまり、dedicated head office overheadと案件に紐づいていないもの、つまり、unabsorbed head office overheadがある、というお話をしました。

 

さらに、unabsorbed head office overheadと逸失利益の2つは、納期延長とそれら損失の発生との間の「因果関係」と「金額」の証明が難しい、ということも述べました。

 

ここでは、「では、コントラクターはどう対応するべきか?」という点について解説します。

 

そもそも、unabsorbed head office overheadと逸失利益に関する原因と結果の因果関係とそれらの金額の立証をする責任はコントラクターとオーナーのどちらにあるのかというと、それは、コントラクターです。この点は、大前提です。

 

そして、原因と結果の因果関係は、以下の2つを証明することで認められることになります。

  • 納期延長が行われた期間に、本来ならば他の案件を受注することで得られたはずのunabsorbed head office overheadと利益を回収することでできなくなったこと。
  • 他の案件に投入すべき人員などのリソースを、納期延長された案件の方に投入しなければならなくなり、その結果、その他の案件を受注できなくなってしまったこと。

 

上記2つを立証できれば、「コントラクターのせいでない事象」→「納期延長」→「他の案件の受注のためのリソース不足」→「失注」→「他の案件を受注できていたら得られたunabsorbed head office overheadと利益を回収できなくなった」という流れが明確となり、「コントラクターのせいでない事象」という原因と「unabsorbed head office overheadと利益を失った」という結果との因果関係が証明されたことになります。

上記を立証するために必要となる記録は以下のようなものが考えられます。

 

・コントラクターの事業計画(納期延長となる遅れが生じる前に作成されたもの)

→もともと受注が計画されていない案件については、本社経費や利益を請求できません。

 

・人員のリソースに応じた、コントラクターの案件受注・失注に関するデータ

→これは、「どれだけのリソースが受注活動のために必要となるのか?」という点を検討するために必要となると考えられます。

 

・将来の入札機会の検討および入札準備のために投入されるスタッフを検討する会議の議事録

 

次に、unabsorbed head office overheadと逸失利益の金額の証明です。これは、記録によって証明できることが望ましいです。しかし、それが難しい場面も多いと思われます。そのような場合には、計算式が用いられるのが一般的です(計算式なので、実際の金額と全く一致するわけではありません)。

 

この計算式は、3つあります。

①Hudson formula

②Emden formula

③Eichleay formula

 

上記の式の内容を以下に示します。これは、案件Aが納期延長となり、その結果、案件Bの受注活動にリソースを投入できなくなったがために案件Bを失注した場合を例にとります。

Hudson formula

Emden formula

Eichleay formula

 

この3つの中で、どのような場面でどれを使わなければならないか、という決まりはありません。

ただ、①Hudson formulaは、大雑把な計算方法と捉えられているようです。というのも、Hudson formulaはその式を見てもわかるように、案件Aの入札時の金額に基づいて算定しているためです。

一方、②Emden formulaは案件Aの入札時の金額ではなく、実績値に基づいて算定されています。

そして、③Eichleay formulaは、案件Aの契約期間中におけるコントラクターの売上総額における案件Aの契約金額の割合から、案件Aの本社経費と利益を算定しているので、やはりHudson formulaによる結果よりも実績値に近いといえそうです。

 

そのため、英国プロトコル(Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol 2nd edition February 2017)では、②Emden formulaか③Eichleay formulaを使用することを推奨しています。ちなみに、③は特に米国で好まれているようです。

 

また、2つ以上の計算式を用いて、算出された金額を突き合わせることで、金額の妥当性を示すことも行われているようです。

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EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その②
フロートとは何か?
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フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合
同時遅延の扱い その① 納期延長について
同時遅延の扱い その② 追加費用について
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その①
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益

 

 

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