納期延長に伴って生じる追加費用(prolongation cost)の請求について その②本社経費と逸失利益とは何か? ~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑩~

      2019/11/17

前回は、納期延長に伴ってコントラクターに生じる追加費用として、①サイトに長く滞在することで生じる費用、②ボンド手数料・保険料、そして③対価の支払いが後ろにずれ、そのため、コントラクターが銀行から資金の融資を受けることになることで生じる利息などがある、というお話をしました。

 

ここでは、これらに加えて、本社経費逸失利益について解説します。

 

本社経費とは、head office overheadと呼ばれます。これは、dedicated head office overheadとunabsorbed head office overheadの2つに分かれます。

 

dedicated head office overhead

まず、dedicated head office overheadとは、ある特定の案件に紐づいて生じる本社経費のことです。例えば、納期が延長されるプロジェクトにおいて、本社の役員がそのプロジェクトが行われているサイトに出張するためにかかる出張費用があります。

 

unabsorbed head office overhead

一方、unabsorbed head office overheadは、特定の案件に紐づけることができない本社経費を指します。例えば、コントラクターの固定資産税、本社があるビルの賃貸料、本社の光熱費、さらには役員の報酬などです。

 

これらが、特定の案件に紐づけることができない、というのはわかりますでしょうか?例えば、本社があるビルの賃貸料は、今進んでいるプロジェクトのために生じた費用ではありません。その会社が存在し、本社ビルを借りることで生じる費用です。また、役員は、今進んでいる案件にだけ特化して仕事をしているわけではなく、コントラクターが抱える案件全般的に関わっているといえます。そして、そのことに対する報酬が役員報酬なのです。

 

こういったunabsorbed head office overheadは、dedicated head office overheadと異なり、どんなにそのプロジェクトに関する記録を詳細に保存できていても、そのプロジェクトとの関係を紐づけることができないものです。

 

unabsorbed head office overheadの配賦

しかし、unabsorbed head office overheadは、特定のプロジェクトと無関係とまではいえません。それは、次のような理由です。

 

unabsorbed head office overheadは、通常、コントラクターが受注する複数の案件から賄うようにされています。これを配賦と呼びます。例えば、コントラクターが年にA、B、Cという3件の案件を受注する予定だったとします。すると、unabsorbed head office overheadは、その案件の規模に応じて、割り当てられるのです。今、簡単にunabsorbed head office overheadが300万円で、A~Cの案件の規模が等しいと考えましょう。そして、unabsorbed head office overheadは各案件に100万円ずつ配賦されるとします。

 

ここで、案件Aが、当初の予定よりも完成が遅れたとします。そのため、本来であれば案件Bの受注活動に割くはずだった人員を案件Aの遂行のために投入しなければならなくなり、その結果、案件Bを受注できなくなったとします。すると何が起こるでしょうか?案件Bに配賦したunabsorbed head office overhead=100万円分だけ、コントラクターは回収できないことになります。

こうして、案件Aの納期延長に伴い、別案件である案件Bに配賦されていたunabsorbed head office overheadがコントラクターの損失となるのです。

 

また、案件Bを受注できなくなることで、案件Bを受注できていたならば得られたはずの利益があります。それが逸失利益(lost profit)です。案件を受注する際、通常、その案件の契約金額の中には、建設のためのコスト、本社経費、そして利益が含まれています。この利益分を得られなくなるわけです。

 

コントラクターはオーナーに請求できるのか?

上記の本社経費(dedicated head office overheadとunabsorbed head office overhead)、および逸失利益を、案件Aの納期延長に伴って生じる損失として、コントラクターはオーナーに対して請求できるのか?という点が問題となります。

 

この点、まず、dedicated head office overheadは当然できます。ある役員が、納期が延長された案件Aの仕事に関わるためにサイトに出張した費用は、その証拠があれば、納期延長から生じた費用といえるからです。

 

問題は、unabsorbed head office overheadと逸失利益です。

 

なぜ、これらが問題になるかといえば、「本当に、案件Aの納期の遅れがなければ、コントラクターは案件Bを受注できていたのか?」と「実際に、unabsorbed head office overheadと逸失利益はいくらになるのか?」といった事項の証明が難しいからです。

 

ある案件を受注できるかどうかは、様々な要因と関係します。案件Bの受注活動の時期と、案件Aの延長された仕事遂行期間が重なっていた、というだけでは、本当に案件Aの遅れのせいで案件Bの受注活動に支障が生じたとは言い切れません。他の証拠と合わせて、案件Aの遅れと案件Bの受注失敗が「原因と結果の関係」にあることを証明する必要があります。

 

また、どの案件にどれだけの利益を見込んでいたのか、というのは、ある意味、コントラクターの勝手です。また、数字を作ることもできます。もしかすると、案件Bは利益が本当はほとんど出ない形でしか完成できないようなものだったかもしれません。しかし、契約締結時のコントラクター社内の予定では、とても楽観的に考えていて、かなりの利益が出る案件だと捉えていたとします。ではこの場合、コントラクターが楽観的に得られるはずと考えていた金額を逸失利益として認めてよいでしょうか?

 

上記の様な①因果関係の立証と②金額の確定という2つの点において、unabsorbed head office overheadと逸失利益の請求は難しいものとなります。

 

特に逸失利益は、契約書上に、「両当事者は、お互いに逸失利益について責任を負わない」と明記されていることがあります。その一方で、コントラクターがオーナーに納期延長に伴って請求できるのは、コストとoverheadだけ、つまり、「利益は除く」と定められていることがよくあります。こうなると、コントラクターはオーナーに対して逸失利益を請求できないことになります。

 

次回では、unabsorbed head office overheadと逸失利益の①因果関係の証明と②金額の確定の2つの問題点への対応方法について解説します。

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EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
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