納期延長に伴って生じる追加費用(prolongation cost)の請求について その①~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑨~

      2020/01/21

コントラクターの原因でない事象(例えば、オーナーの契約違反(サイト引き渡し義務の遅れなど)法令変更など)が発生して、クリティカルパス上の仕事に遅れが生じました。

 

この場合、納期に間に合わなくなります。

 

コントラクターとしては、契約書に定められている手続きに従って、いわゆる納期延長クレーム(EOTクレーム)をオーナーに対して行うことになります。

 

ここで、納期延長が認められる場合、コントラクターはそれだけで安心してよいでしょうか?

 

確かに、納期が延長されれば、コントラクターは納期に遅れることで生じる納期遅延LDの支払義務を免れることになります。これは、納期延長クレームをすることでコントラクターが得られる果実の1つではあります。

 

しかし、忘れてはならないのは、納期が延びるということは、コントラクターに追加費用が生じるということです。

 

具体的にどのような費用が生じるのか見てみましょう。

 

サイト滞在に伴う費用(site establishment costs)

まず、サイトに予定よりも長く滞在しなければならなくなったことで生じる費用が考えられます。例えば、サイトの建設機材のレンタル費用や、サイトで使用していたレンタルカーの費用、または仮説設備のレンタル費用サイトスタッフの費用、そして、電気・ガス・水道などのutility costなどです。

 

これらは、●円(ドル・ユーロなど)/日という形で算定できるものであるはずです。よって、もしも納期が10日遅れるなら、この10倍、20日遅れるなら、20倍の費用が生じることになります。

 

他にはどんなものがありえるでしょうか?

 

ボンド発行手数料

忘れがちなのが、ボンド発行手数料です。

 

ボンド、たとえば履行保証ボンドは、通常、検収時にオーナーから返還される、またはボンド保証料が減額されることになっているのが通常です。そして、このボンドの発行手数料をコントラクターがボンド発行銀行に支払っていますが、これは、予めボンドの期限を定めており、それに基づいて決められているはずです。

 

よって、検収日が後ろに行けば行くほど、コントラクターが銀行に支払わなければならないボンド手数料は増えます。

 

保険料

これと似たものに、保険料があります。EPC契約では、工事保険第三者賠償責任保険などをつけているはずです。そして、その保険料をコントラクターが銀行に支払っていることもよくあることでしょう。

 

この保険も、期間が予め検収日までとされているはずです。とすれば、この検収日がズレれば、それだけ保険会社に支払うべき保険料は増えていきます。したがって、この保険料も、納期遅延に伴って生じる追加費用といえます。

 

finance costs

さらに、次のようなものも考えられます。

 

一般に、検収時に比較的大きな契約金額が支払われる仕組みになっていることが多いと思われます。しかし、検収が後ろにズレたことで、コントラクターがオーナーから契約金額の支払を受けるのもその分遅れることになります。

 

これにより、コントラクターがキャッシュ不足となり、銀行から資金の融資を受けなければならなくなることもあるでしょう。すると、当然、コントラクターは銀行に利息を支払わなければならなくなります。この利息分も、元はといえば、納期延長に伴って生じたといえます。

 

以上をまとめると、納期が延びることで、以下の様な費用が追加で生じることになります。

・サイト滞在によって生じる費用(site establishment costs)

・ボンド費用・保険料(contract costs)

・対価未払い分の利息(finance costs)

 

もちろん、法令変更によって、設計から作業をやり直さなければならなくなり、さらには使用する材料も増えるという場合には、それらの費用も生じます。ただ、純粋に「納期が延びたことで生じる費用」というくくりで整理すると、上記3つが代表的なものとなります。

 

このような費用を、prolongation costと呼びます。

そして、このprolongation costをコントラクターは納期延長クレームと共に、オーナーに対して請求していくことになります。これが認められないと、コントラクターはその分損失を被ることになります。

 

もっとも、実は、納期が遅れることで、更にコントラクターに生じる損失があります。

 

それは、本社経費逸失利益です。

 

これは上記に示した費用とはやや異なる配慮が必要になりますので、次回の記事で解説いたします。

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~
22

必要な立証の程度~balance of probabilities~

 - Delay Analysisの基礎知識