納期遅延LDの上限とSole and Exclusive Remedyの条文例とその構造の解説

      2019/11/17

前回は、納期遅延LDの支払の条文例とその構造の解説をしました。ここでは、LDの上限(例文(1))と、LDの支払がsole and exclusive remedyであることを定める条文(例文(2))について解説します。

 

例文(1)

In no event shall the total Delay LD for the failure to achieve the Substantial Completion of a Plant on or prior to the Guaranteed Substantial Completion Date for such Plant exceed in the aggregate an amount equal to twenty percent (20%) of the Contract Price for such Plant.

 

「プラントの保証された実質的完成日までに実質的完成を迎えることができない場合でも、納期遅延LDは、かかるプラントの契約金額の20%に相当する金額を超えない。」

 

構造

In no eventという否定する語が文頭に来ています。そのため、その後は倒置が起こります。つまり、疑問文の形となるのです。助動詞がある肯定文の場合には、その助動詞が主語の前に出てきます。そのため、in no eventの後には、shallがあるのです。ということは、shall以下がこの英文の主語であるということになります。

 

問題は、主語に該当する部分がどこまでか、です。これは、かなり後ろまで行かないとわかりません。exceedが動詞なので、その前まで、つまり、上記下線部分が主語に相当する部分となります。途中で、achieveという動詞も出てきますが、これはto不定詞なので、文の主語にはなりえません。

 

英文契約では、主語に相当する部分がこの程度の長さとなることはよくあることなので、粘り強く動詞が出てくるのを待つ姿勢を持つことが、英文の構造を正しく把握するためには必要となります。

 

英単語

(1)the failure to achieve:義務を果たせないことをfailureといいます。これを動詞の形にしたのがfail to doです。

義務違反というと、breach of the contractなどという表現もあり得ますが、これだと、具体的にいかなる契約上の義務を果たさなかったのかを示すことができません。Failureを使えば、その後にto doを置くことで、それを示すことができます。

つまり、failure to payであれば、支払い義務に違反、failure to deliverであれば引き渡し義務に違反となります。

「~しない、~できない」をdoes not doで書くこともできますが(例えば、the Seller does not deliver the Product…)、英文契約書ではそれよりも、fails to doを用いることの方が通常です。

 

(2)on or prior toは、前置詞が2つ続いていて不自然な感じがしますが、これは「ある日、またはある日の前」という意味で、要は、「以前」ということです。on or beforeも同じです。

 

(3)an amount equal to のequal形容詞です。形容詞は通常、左から右にかかっていきますよね。しかし、このan amount equal toの場合には、「~に等しい金額」というように、右から左にかかるように捉えることになります。これはなぜでしょうか?実はこれは、何かが省略されているからです。それは、which isです。実はこれは、an amount (which is) equal toなのです。

 

例文(2)

Payment of the Delay LD by the Contractor shall be the Owner’s sole and exclusive remedy for the Contractor’s failure to achieve the Substantial Completion of a Plant on or prior to the Guaranteed Substantial Completion Date for such Plant; however, Delay LD are intended only to cover damages suffered by the Owner as a result of delay and shall not affect (i) the right of the Owner to terminate this Contract pursuant to the Article [契約解除の条文] hereof or (ii) their remedies provided for in the Article [契約解除の条文] hereof as result of such termination.

 

「コントラクターによる納期遅延LDの支払は、プラントの実質的完成日までにコントラクターが実質的完成を迎えることができない場合のオーナーの唯一かつ排他的な救済であるものとする。

しかしながら、納期遅延LDは、遅れの結果としてオーナーが被る損害をカバーすることだけを意図されたもので、本契約の「解除に関する条文」条に従って本契約を解除するオーナーの権利、または、かかる契約解除の結果として本契約の「解除に関する条文」条に定められる救済に対して、何ら影響を及ぼすものではない」

 

構造

(1)affectの目的語となる部分が(i)the rightと(ii)their remediesになります。ここでは(i)と(ii)という番号が付いているのでこの点は容易に見分けがつきますが、残念ながら、このような番号がないことの方が通常です。その場合でも、affectの目的語が2つある、という点に気が付くことができるようにするには、andやorが出てきたら、都度、「何と何が関係づけられているのか」と確認するクセをつけることです。

 

英単語

(1)the Owner’s sole and exclusive remedyとは、オーナーが請求できる救済が納期遅延LDの支払だけであることを示しています。例えば、実際にオーナーに生じた損害が納期遅延LDの金額を超えたとしても、その差額をコントラクターに請求することはできないません。

本来、LDとはそういうもの、つまり、sole and exclusive remedyなので、このことが明記されないこともありますが、コントラクターとしては、納期に遅れた場合に負うオーナーの損害補填のための責任は納期遅延LDの支払に限られる点を明確にするためにも、定めておいた方がよいでしょう。

 

(2)damages suffered by the Ownerは、「オーナーによって被られた損害」=「オーナーが被った損害」です。

このsufferedの代わりに、sustainedも時々使われます。sufferもsustainも「~を被る」という意味です。

一方、the additional cost incurred by the Contractorという表現もあります。

これは「コントラクターが被った追加費用」という意味ですが、ここで使われているincurも、実は「~を被る」です。

上記sufferやsustainとの違いはないように思えますが、incurcostを共に使われることが多いのに対して、sufferやsustaindamageやdamagesと共に使われることが多いようです。

英英辞典を見てもそのような区別は定められていません。あくまで、私がこれまで見てきた英文契約書内での使われ方としての傾向としてそのようだというだけです。

 

ポイント

however以下は、その上で述べられていることと矛盾するように思えるかもしれません。

つまり、その前では、「納期遅延LDの支払は、オーナーが被った損害をカバーするためにオーナーに与えられた唯一のものだ」と言っているのに、however以下では、オーナーは契約を解除できるし、解除によって生じる権利を行使することもできる、となっているからです。

しかし、これは何等矛盾するものではありません。

howeverより前の部分では、「遅れ」によってオーナーが被る損害を補填するための手段としては、納期遅延LDの支払だけで、その他に追加で何か支払われるわけではない、ということが定められているのです。

一方、however以下は、「損害の補填」の話ではなく、「契約そのものを終了させる」というものです。

もっとも、契約を解除することで終了させた後には、その解除によってオーナーが被る損害を賠償する責任をコントラクターが負うことになりますが、これは、「遅れ」そのものから生じる損害の補填とは異なる性格のものなのです。

したがって、「howeverよりも前と後とでは、何ら矛盾するものではない」ということになります。

LDについて興味がある方は、こちらの記事もお勧めです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Delay Analysisの基礎知識】

納期に遅れた場合に納期遅延LDを課されるのを防ぐためには、納期を延長するようにオーナーに請求すること(EOTクレーム=Extension of Time claim)が必要になります。そのためには、Delay Analysis(遅れの分析)をしなければなりません。これについての基礎知識の解説が以下です。

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 

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