コンプライアンスを果たすには?

   

10年ほど前から、「コンプライアンス」という言葉が企業活動において重要視されているように感じます。

 

コンプライアンスとは、「法令遵守」という意味です。具体的には、独占禁止法違反や、贈収賄をしないように、さらには、違法な会計処理をしないようにすることなどもコンプライアンスに含まれるでしょう。

 

企業には、コンプライアンス専門の部署を設けている企業も結構あるようです。

 

しかし、重要だと言われている割に、企業による不祥事や法律違反はやはり起こっています。

 

そのたびに、企業のコンプライアンス部門は、「法律に違反すると如何に企業に重大な損害を生じさせるか」を従業員に徹底させようとしています。実際、私が企業の法務部で働いているときもそうでした。コンプライアンス違反をすると、世間から信用を得られなくなり、その結果その企業の製品を買ってもらえなくなり、その結果売り上げ・利益が落ちる、というものです。

 

これは確かにその通りでしょう。そして、このことは誰でも簡単にわかることのはずです。しかし、それでもコンプライアンス違反はなかなかなくなりません。これはなぜなのでしょうか?

 

 

世の中には、刑法という法律があります。犯罪をした人を罰する法律です。犯罪をすれば、この刑法が適用されることは誰でも知っています。しかし、それでも毎日多くの犯罪が起きています。殺人、強盗、窃盗、詐欺・・・。

 

普通に真面目に生きている人から見れば、「犯罪をしたら、刑法に基づき罰せられ、刑務所に入る、または罰金を支払わなければならないのに、どうして犯罪に手を染めるのか?」と思いますよね。

 

つまり、犯罪をしたら罰せられる、ということがわかっていても、犯罪を行う人が世の中にはいる、ということです。

 

その理由は色々あるでしょうが、個人的な恨みを果たす、というものを除けば、その多くは「お金が欲しいから」でしょう。

 

 

企業のコンプライアンス違反の多くは、結局は、「利益を出したい」、または「利益が出ているように世間に見せたい」という欲望が原因です。

 

独占禁止法違反も贈収賄も、自社ができるだけ経済的に有利になるために行われます。

 

違法な会計処理は、実態よりも利益が出ているように世間に見せたいがために行われます。

 

逆に言えば、上記の様なコンプライアンス違反は、経営があまりうまく行っていない企業が苦し紛れに行うのです。経営がうまくいき、利益が十分に出ているなら、コンプライアンス違反をしようなど、なかなか思わないのです。

 

とすれば、コンプライアンス違反がなるべく起きないようにするための重要な方法は、「企業の業績を上げること」です。「コンプライアンスは重要です!」「コンプライアンスをすると、企業に損害が生じます!」とどんなに声高に従業員に呼び掛けても、その効果は乏しいでしょう。そのことは、刑法をしっかりと整備しても犯罪に手を染める人がいなくならないのと同じです。

 

戦後、日本は強盗や窃盗などの犯罪が横行しました。そのような犯罪は、幼い子供も行いました。その理由の1つは、とてつもなく貧しかったからです。あまりに貧しくて、犯罪に手を染めなければ、生きていくことすらできない時代があったわけです。そのような時代に、どんなに刑法を整備しようが、取り締まりを厳しくしようが、「犯罪をしなければ生きていけない状況」が改善されない限り、「どうやって警察の目をかいくぐるか?」を必死で考える人が出てくるのです。

 

もちろん、刑罰が不要だとか、コンプライアンスの重要性を従業員に教育することは不要だと言いたいのではありません。

 

ただ、コンプライアンスと叫べば、教育を施せば、制度を作れば、それで従業員がコンプライアンスを徹底的に遵守するようになるかというと、必ずしもそうではないのです。

 

 

フランス革命において、弁護士出身であるロベス・ピエールは、物価の上昇を抑えるために、ある法律を制定しました。それは、「最高価格令」と呼ばれるものです。これは、物の最高価格を定め、それ以上に価格を上げてはいけない、という法律です。

 

確かに、直接的には物の値段は売主がつけます。そのため、売主に「最高価格令を守らなければ」と思わせれば、物価は安定するとロベス・ピエールは考えたのでしょう。しかし、みなさんご存知の通り、物の値段は根本的にはその時の経済で決まるものです。法律でどうこうできるものではないのです。法律で何でも決められる、ルールを設ければそれに人が従う、というものではないのです。実際、最高価格令を定めた後、それをかいくぐるために、闇取引が横行し、フランスの経済は余計に混乱しました。

 

 

重要なのは、根本治療です。なぜ、企業の従業員が、時には役員が、コンプライアンス違反に走るのか?それは上述の通り、「自分が所属する部門や企業の利益を上げたいから(利益が出ているように見せたいから)」です。よって、企業の経営がうまくいっていれば、コンプライアンス違反など、そう滅多に起こるものではないのです。

 

また、もしも個々の従業員や部門が厳しい売り上げ達成目標を課されなければ、「法律に違反してでも受注しなければ!」とか、「利益を水増ししなければ!」などと通常は思わないのです。

 

とすれば、一番力を入れるべき対策は、経営をうまくいかせるようにすること、利益が出るようにすること、従業員に不当にプレッシャーを与えないこと、です。

 

「どんな状況でも、コンプライアンス違反はダメ!」などと従業員に教育することはもちろん必要ですが、上記が果たされていないと、必ず抜け道を探し、「バレなければいいんだ」と考える人が出てきます。

 

コンプライアンスを果たすために最も必要な施策は、コンプライアンスのための制度設計に注力することではなく、経営力の強化です。間違っても、社内のコンプライアンス教育を徹底し過ぎることで、事業部門の業務遂行を妨げる、というようなことだけは起こらないようにしたいですね。

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