リテンションボンド

      2019/11/22

入札保証ボンド前払金返還保証ボンド履行保証ボンド瑕疵担保保証ボンドと4つのボンドの解説を既にしましたが、今回は、更に「リテンションボンド」について解説します。

 

リテンションボンドとは?

 

リテンションボンドとは、日本語でいうと、「留保金解除保証」となります。

 

つまり、リテンションボンドとは、留保金を解除してもらうためにオーナーに提供されるボンドです。

 

では、留保金とは何でしょう?

 

EPC案件は、工期が数年に渡ることが少なくありません。

 

そのため、契約金額も、ある時期、例えば検収時に一括して支払われるということはなく、前払金の支払いがあり、その後も検収までの間のいくつかのマイルストーン達成時に分割して支払われる、という仕組みになっていることが多いでしょう。

 

このような作業の進行に応じて進捗払いされる場合に、その5~10%といった一定の割合の金額の支払がオーナーに留保されて積み立てられていく仕組みをとる場合があります。

 

これは、金額を担保に取られているようなものです。

 

そしてこの留保された金額は、検収時点でその半額がコントラクターに支払われ、さらに残りは瑕疵担保期間満了時にコントラクターに支払われる、という扱いになっていることがあります。



 

留保金(リテンション)の仕組みの狙いは?

 

さて、このような仕組みをとることの狙いはなんでしょうか?

 

オーナーにしてみれば、コントラクターが契約に従って仕事をしないことによって何か損害を被った場合には、その留保金から賠償してもらうことができます。

 

コントラクターからしてみたら、できるだけ早く留保金を支払ってほしいと考えるはずなので、納期に遅れずに検収されるように頑張ろうと思うでしょう。瑕疵担保期間中に発見された瑕疵の修理・交換も、できる限り速やかに済ませようという気持ちになりますよね。

 

まさにこれが留保金の狙いです。

 

 

コントラクターのキャッシュフローとリテンションボンド

 

この留保金の狙いを実質的に維持しつつ、しかし留保金それ自体はコントラクターにすべて支払われるようにする方法、それが、リテンションボンドです。

 

つまり、留保金の金額に相当する保証額のボンドをコントラクターがオーナーに提供するのです。

 

すると、オーナーは、留保金の代わりに、実質的には留保金と同じ働きをするリテンションボンドを保有することになり、一方でコントラクターは留保金をオーナーから支払ってもらえる(留保金の解除)のです。

これにより、コントラクターは、留保金が支払われる分だけキャッシュフローがよくなりますよね。



もっとも、ボンドを発行するのが銀行なので、コントラクターは銀行にボンド発行手数料を支払うことになります。その手数料分をEPC契約の対価に含める場合には、その分金額が高くなるので、競争の激しい入札においてはコントラクターに若干不利になるかもしれません。契約金額に含めない場合には、手数料の分だけコントラクターの利益が減ることになるでしょう(といっても、全体の金額からしてみたら大した金額ではないと思いますが)。

 

このように、リテンションボンドを出すことは、コントラクターにとって必ずしもメリットだけではないかもしれませんが、留保金を早く支払ってもらうことでキャッシュフローが良くなる点は間違いないので、メリットデメリットを考慮した上で、留保金に対してどのような対応をとるかを判断することが必要になると思います。


EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

 - EPC契約のポイント