コストオーバーランの原因を突き止めることの難しさ~なぜ、ウェスチングハウス社の原発建設案件で巨額損失が生じたのか?⑩~

      2017/06/29

東芝がその子会社であるウェスチングハウス社について米国のチャプター11の申請をした結果、今年度の赤字は日本の製造業の中で史上最大の金額になりました。

 

その原因は、米国でウェスチングハウス社が受注した原発建設案件でのコストオーバーランであるとされています。

 

これを受けて東芝は、「今後海外では原発建設に関わらない」と社長が言っていましたね。

 

そして、こうも言っています。

 

海外で原発建設を今後しないから、大きなリスクは切り離すことができると考えている

 

 

 

・・・さて、本当にそう言えるのでしょうか?

 

というのは、この発言は、「コストオーバーランは、海外での原発建設でのみ生じるもので、それ以外では起きえない」という考えを前提にしているようにも聞こえます。

 

しかし、コストオーバーランに陥る可能性があるのは、何も海外での原発案件に限ったことではありません

 

日本の大企業も、世界の超有名企業も、コストオーバーランは起こしています。

 

その原因は、実は明確にはなっていません。

 

それなのに、「海外で原発建設しなければコストオーバーランのリスクはない」と考えてしまうのは、非常に危険です。

 

そもそも、東芝で2015年春に発覚した不正会計問題は、インフラ案件で生じた損失を、工事進行基準に従って会計上適切に処理しなかったことから始まりました。

 

「インフラ案件で生じた損失を、工事進行基準に従って会計上適切に処理しなかったこと」の前提は、複数の案件でコストオーバーランに陥っていたことです。

 

当たり前のことですが、コストオーバーランに陥っていなければ、工事進行基準絡みの不正会計はないわけです(その他の不正会計はあったでしょうが)。

 

ここでいうインフラ案件とは、原発案件だけではありません。

 

東芝が公表している第三者委員会の資料をみれば、上記は明らかです。

 

つまり、もともと東芝は、原発案件以外でも、コストオーバーランを起こしていた会社だったわけです。

 

従来は、多少のコストオーバーランであれば、さほど経営に影響はありませんでした。

 

半導体で得た利益で埋め合わせることができたからです。

 

これが、複数事業を手掛ける企業の強みでしょう。

 

一つがこけても他で頑張れば全体で生き残れる。

 

しかし、半導体を売却し、海外原発建設をしないと決めた東芝は、今後インフラ案件を中心に事業を進めていくとしています。

 

よって、今後、インフラ案件でコストオーバーランにならないように細心の注意を払って案件を進めていく必要があります。

 

つまり、半導体を売却後にまたコストオーバーランなんて起こしたら、もうどうしようもない事態に陥る可能性があるわけです。具体的には、インフラ案件のコストオーバーランで生じる損失を、他の優良事業から獲得した利益で埋め合わせるということは難しい会社になるわけです。

 

おそらく東芝内部でも当然そのリスクは認識しており、「コストオーバーランにならないようにどうしたらよいのか?」という検討や対策は行われていることでしょう。

 

しかし、コストオーバーラン対策の難しさは、上記にも書いたように、「原因がよくわからない」という点にあります。

 

原因がよくわからない理由はいくつかあります。

 

まず一つは、コストオーバーランに陥る案件は、大型のプラントやインフラ案件が多いですが、それらにおいて注文者とコントラクター間でコストオーバーランに起因する費用負担の争いが起きた場合、審議が公開される裁判ではなく、審議が非公開である仲裁という方法で紛争解決がなされることが圧倒的に多いのです。

 

審議が公開されないので、他社のコストオーバーラン事例を検討し、そこから原因を抽出し、自社に反映させることができないのです。

 

そのため、コストオーバーランが生じ、そのことが新聞やテレビで報道されはしても、そこから本当に役に立つ情報を得ることはできないのです。

 

得られるのは、単に、「どこどこの会社が巨額の損失を被った」とか、「そもそもあの案件は受注するべきではなかった」といった程度の、どうやっても今後に活かせそうにない情報だけです。

 

中には、「適切なガバナンスをきかせないといけない」とか、「コスト管理をしっかりしないといけない」といったことが書かれている記事もありますが、そんなことは、もともとどこの会社でもやろうとしてきたわけです。「それでも損失が生じているのはなぜか?」が分からないと、改善のしようがありません。単に、「ちゃんとやれ」「いつもよりも厳しくチェックしろ」といった指示を上司から部下に、親会社から子会社に、元請から下請けになされる程度でしょう。

 

 

2つ目は、過去、社内で生じたコストオーバーランの原因を追究することの難しさです。

 

本来、コストオーバーランを何度か起こしている東芝なら、その過去の事例を研究すれば、コストオーバーランの原因を知ることはできなくはないはずです。

 

しかし、これは実は難しいことです。

 

この難しさは、物理的な難しさではありません

 

何が難しくさせているのかというと、それは、「誰かの責任問題に行き着くから」です。

 

過去のコストオーバーラン案件におけるその案件を受注するかどうかを決定する会議の資料はもちろん、見積もりをした人はどのような根拠に基づいて対価を決めたのか、そこの合理性はどのように検討したのか、といった点を追求していくと、おそらく、「担当者の誤った判断」「誰かのいい加減な処理」「どこかの部署の楽観的な対応」そして「どこかの部門の杜撰な仕事」などが明らかになってくるかもしれません。

 

そうすると、その個人、または、部署としての責任の問題というものが出てきます。

 

そのようなことが明らかにされると、困る人や部署もでてくることでしょう。

 

そうなるから、「まあ、過去のことはもういいでしょ。これから気を付ければいいんだよ」となることが多いのではないでしょうか。

 

そうして、確かな対策も立てられないまま、「いつもよりも気を付けて行こう!」という半ば精神論のような掛け声だけで今後も突き進んでいくことになるのだろうと思います。

 

または、まったく的外れな対策を立てて、コストオーバーランの対策にさほど効いてこないところを厳格にチェックするようになり、その結果、「苦労は多いが効果は少ない」という結果にもなりかねません。

 

例えば、インフラ案件の契約書を片っ端から厳格にチェックするなどがあげられます。

 

コストオーバーランは、基本的に、契約書の問題ではないのです。実際のプロジェクトの遂行の問題なのです。しかし、契約書のチェックを厳格に行うことは、わかりやすく、しかも比較的容易なので、安易にそちらに流れてしまいがちです。

 

これに流れると、「営業部門その他の業務量が以上に増える」「受注に至るスピードが維持できない」「失注に繋がる」などの悪循環に陥りかねません。

 

東芝がコストオーバーランを今後インフラ案件で起こさずに済むかどうかは、過去の事例の研究をどれだけ真剣に、そして非情になって行うことができるか、にかかっていると私は思います。

 

 

 - 東芝巨額損失の原因の一考察, EPC契約におけるコストオーバーランの原因と対策について